科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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科学・技術の革新で地球環境は救えるか

科学・技術の革新で地球環境は救えるか

 地球環境の悪化,特に地球温暖化は急速に進んでいて,もはや猶予できないところにきているように思える.国連機関のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告(2007年)は,この温暖化は人為によるものであることを指摘した.ドイツで開かれたG8サミットに引き続き洞爺湖サミットでも,地球温暖化防止のためにCO2排出の削減目標が大きな議題になっている.このニュースは地球環境の問題を世界の人々にアピールする効果はあったろう.しかし,その目標を実現する手だての具体的議論には,各国の足並みが揃わず真剣みが感じられない.アメリカや日本政府の提案は悠長過ぎるし,中国,インドは危機意識が薄い.

 ところで,地球環境保全のために,CO2排出の削減や省エネルギー技術の開発の必要性がしばしば唱えられている.国連を初め日本政府もその方針を打ち出している.環境破壊を防止して地球を救うのも,科学・技術での力が大変有効かつ不可欠であることは間違いないから,その方針に反対するつもりはない.しかしその方法には限界があるし,そればかりでなく,その新技術も使用法によっては逆にエネルギー消費を増やしたり,新たな環境破壊の要因を生み出したりする可能性があることを認識すべきであろう.営利追求の資本主義社会における市場原理優先の政治・経済制度を改め,同時に人類(特に先進国の人たち)の意識改革なしには,科学・技術革新のみでは地球環境を救うことは不可能であると思う.

技術革新のもつ矛盾  
 環境保全対策のための科学・技術の開発には,主に(1)省エネルギー・省資源のための機器・装置の小型化,(2)環境汚染物質の排出量を減少する技術や,それに替わる代替物質の発明である
 (1)の小型化では,大型機器を小型することにより,製造のための資源が節約されるし,そして運転のためのエネルギー消費量が大幅に減る.それゆえ,環境破壊を阻止するのに大変有効であるように思える.たとえば,コンピュータの場合,半導体のICチップス技術が進んだために,大容量メモリーのコンピュータの小型化で資源と電力の節約は計り知れないであろう.また,超微細物質を操作し細工するナノテクノロジーの進歩は,多方面で機器の小型化を可能にしつつある.
 これらの技術開発により,非常に多種機器の小型化が進み,莫大な資源とエネルギーの節約が可能になった.だが喜んでばかりはいられない.コンピュータの小型化により,パソコンが一般家庭にまで大量に進出した.今では携帯電話機がそれに替わろうとしている.その結果,社会全体で見れば,パソコン・携帯電話の全台数は指数関数的に膨れ上がり,その製作に必要な資源量と電力消費量は大型コンピュータ時代に較べて却って増えた.技術革新によるIT機種の改良で次々に新機種が売り出され,売れ残り物の廃棄と使い捨ての無駄は目に余るものがある.他方,IT技術の発達に伴い情報化社会は急速に進み,巨大コンピュータの大量稼働による大量の消費電力のために、その発熱による「IT温暖化」とその冷却法が問題になっている.
 この状況は一例に過ぎず,身の回りを見れば家庭電化機器をはじめ,事務機,医療機器などいくらでもある.この種のものは,その機器が便利であればあるほど,また情報化社会が進めば進むほど,需要が増大し普及する.それにつれて人間の欲望も増大する.一つの優れた技術が開発されると,その技術は多方面に応用されて,逆に資源・エネルギーの大量消費をもたらす結果となる.小型化はその需要に応えやすいから,歯止めのない市場原理優先の経済社会ではその動きを止めようがない.

 次に(2)の代替物発明の技術はどうであろうか.結論を先に言うと,新たな環境破壊をもたらし,下手をすると環境破壊の拡大再生産の可能性がある. 
 その典型的な例は原子力発電であろう.化石燃料の枯渇対策として,またCO2の排出を抑制できるといって,かつて大宣伝された.日本でもかつての科学技術庁が原子力発電に熱心に肩入れした.その推進理由には一理あったが,その政策は杜撰であり,安全性対策は疎かにされた.使用済みウランの処理(原子炉の灰),老朽原子炉廃棄処理の対策に関する見通しが甘く不十分であったために,今になってそれらの処理に困っている.しかも,これには莫大な経費がかかることに蓋をし,原子力発電コストを不当に安く評価している.処理できない使用済み放射性廃棄物は蓄積する一方で,下手をすると将来地球の広範囲が放射能で汚染されかねない.それゆえ,原子力発電は新たな地球環境汚染の要因となりかねない.

 代替物のもう一つは,冷媒ガス用のフロンガス(クロロフルオロカーボン)の利用である.それ以前に使用されていたアンモニアなど有害な冷媒ガスに替わってフロンガスが発明された.フロンは無色無臭,不燃性で化学的に安定しているなどの特性があり,人体に無害であるうえに大気汚染の問題もないともて囃され,エアコンや冷蔵庫の冷媒,電子部品の洗浄,発泡スチロールの発泡材,スプレーなど,広範囲に大量に使われた.しかし,大気中に放出されたフロンが,有害紫外線を吸収するオゾン層を破壊することがわかり,たちまち使用禁止になった.しかし,すでに大量のフロンが上層大気中にあり,オゾンホールは拡がった.またすでに使用された機器中のフロンの回収は容易でなく,今も少量ながら放出されている.フロンガスは,代替物が新たな環境破壊の要因となった典型的例である.これ以外にも洗浄剤などには「環境ホルモン」とされる成分を含んだものがある.

2次,3次効果の予測が必要 
 現代では,科学・技術の規模は巨大化され,一挙に大量の物が製造されるようになった.地球環境保全はスケールが大きいので,そのための技術は必然的に大規模となる.従って,新技術が開発されて一気に使用されると,たちまち全地球にその影響は及ぶ.それゆえ,十分なテストで安全性を確認せずに使用すると,後から気づいたときには遅く,取り返しがつかないことになる.

 CO2を凝縮して地中に埋める方法や,海水に吸収させる方法などいろいろ研究されているが,その2次的,3次的効果を十分検証しないと思いも寄らぬところに影響がでるかも知れない.また,遺伝子組み換え技術も,病害虫に強く生産量を上げるための植物を作り出すが,人体や生態系への直接影響のみでなく,耐性菌の出現など2次効果も検証しなければならない.DNAのうちの大部分はまだその役割がわかっていないから,組み換えの際にその未知の部分が換わっても,その影響はすぐ表に出ない可能性があるからである.このような事例はいくらでもあろう.環境保全の問題は温暖化だけではない.

 地球は一つのシステムとして多くの要素が複雑かつ微妙に絡まり合って動いているから,小さな作用でも相乗効果で拡大され,2次,3次効果の方が大きくなる可能性もある.人間の知恵はまだ不完全であり,技術には予知できない抜け穴がある.技術への過信は禁物である.

資本主義の市場原理に歯止めを
 環境破壊を救うのも科学・技術の力ではあるが,現代ではそのための新技術は環境保全以外に多方面で利用され,むしろ金儲けのための技術開発の方が優先される傾向が強い.便利な生活環境で育ちそれに慣れた人間は,その生活が当たり前と思ってさらに便利さを求める.だから,生活に便利な機器はどんどん売れるので,資源・エネルギー消費の増大に繋がる.何か重大な問題が起こらなければ,この連鎖は止まるところなく続くだろう.

 技術開発による新技術の発明は仕事の能率を大いに上げるが,多くの場合は逆に新たな多量の仕事を作りだし,むしろ社会全体の仕事量を増やしてきた.便利さを求める新技術は社会の活動力を高める潜在能力を持つ.それゆえ,便利な新機械ができると,それが無ければなしですむ余分な仕事を作り,関連産業を生みだすからである.たとえば,複写機の発明はその例である.大量のコピー機の普及は資源と電力の大量消費をもたらしたばかりでなく,それに付随する多くの仕事を増やした.それまでは,無くとも済ませたものをコピーし,無駄なファイルが急増した.その結果,コピー作業,事務量の増加,紙の大量消費,紙屑処理,電力消費といった,環境にとって負の効果を大量に生みだした.コピー機は携帯電話などと併せて情報公害をもたらしたと私は思っている.

 これまでの経験で,新技術により便利なものができても,社会全体で見ると仕事量が大量に増えて,人間の一日の労働時間はあまり減らなかった.ロボットの進歩は人間の労働を軽減し,労働時間を短縮するのではなく,生産量を上げるためにだけ利用され,人間の余暇をあまり増やしてくれなかった.日本では機械化が進んだ結果,むしろ労働時間は延長され過労死がでたが,それは依然あとを断たない.新技術の開発で仕事の能率が何倍上がったか,そしてその技術に付随して(その応用も含めて)増えた社会全体の仕事量の両方を評価すること,またその技術と関連した新機器を含めて資源・エネルギー使用の増減を評価することが必要であろう. 

 環境問題を解決するための科学・技術開発は新たに別の環境問題を生み,最悪の場合は矛盾の拡大再生産になりかねない.この悪循環を断ち切るには,野放しの市場原理優先を止め,同時に私たちの意識を変えることで価値観を転換し,生活習慣を変えなければならないと思う.
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