科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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東大寺二月堂のお水取り(修二会)で思うこと
東大寺二月堂のお水取り(修二会)で思うこと

 毎年恒例の奈良の東大寺二月堂の「お水取り」が3月14日に終わった。お水取りが済めば寒さも終わると言われているが、今年の気候はそのようには進んでくれないようだ。これも気候異変のせいだろうか。
 定年後、気持ちの余裕ができたせいか、日本の伝統行事に少しずつ関心を持つようになった。10年程前に奈良の同僚にお願いして、二月堂の中に入る許可を得てもらい、一晩徹夜で「お水取り(修二会)」の行事を身近に拝観することができた。その時に強く感じたことを綴ってみる気になった。

 この「お水取り」は若狭湾の小浜を水源地とする地下水を奈良で汲み取り(「香水(こうずい)」という)、それを本尊に備える行事であるといわれている。そのもとは中国の風水思想にあるらしい。小浜の水は朝鮮半島に通じているともいわれる。

 お水取りは、籠もりの修行僧(練行衆)6人が1週間不眠不休で行をする。その日は、まず大きな松明を担いで二月堂の回廊を駆け抜ける所から始まった。堂の中に案内され、板の間に座って一晩その行を見ることができた。その場所よりさらにその奥に、本尊・十一面観音が祭られ修行僧の籠もる部屋がある。その中からホラ貝や雅楽の音とともに、絶えることのない読経の声が聞こえてきた。しばらくしてふと気づくと、私たちのいる仕切りの外に、格子戸で仕切られた廊下のようなものがあり、女性がその格子から中を覗いていた。今でも女人禁制で、女性はその格子戸の中には入れて貰えないのだそうだ。

 次々に行われる行事を見て強く感じたことは、このお水取りの行事は仏教だけでなく、大陸の西方から伝わってきた多くの宗教文化の凝縮図だということであった。
 鈴・ホラ貝の音とともに、大きな下駄を履いた大きな下駄を履いた修行僧が下駄の高い音を立てながら時々現れて、五体投地を行うがそのとき身を投げる木の板が激しく高い音をだす。この高い音は不眠の眠気を覚ますためらしい。五体投地にイスラム教やチベット仏教の流れを見た。
 松明は夜半に堂の内部でも炊かれ火の粉が飛び散ったので、よく火事にならないものと驚いた。何度もなされる松明の行事は、ゾロアスター教(拝火教)からきたのであろう。

 このように、「お水取り」にはインド仏教ばかりでなく、チベット仏教、ゾロアスター教、イスラム教、風水思想などが取り込まれている。
 雅楽は上代から伝わる日本古来の音楽や舞とアジア大陸の諸国からもたらされた音楽や舞が融合し日本化したもので、宮中や寺社などにわる芸術である。また、二月堂の隣に神社があることからも推測されるように神道も無視できない。
 こうしてみると、「お水取り」は西アジアの諸々の宗教文明と日本の神道とが統合され、千数百年の間に磨き上げられた日本特有の伝統行事であると思われる。
 

 これらのことは、日本文化は西アジアから中国までの文化の吹き溜まりという感がある。そのことは正倉院御物などを見ても感じられる。「吹き溜まり」というのは悪い意味ではなく、日本の東は太平洋であるために、西から伝来したものがここで行き止まりになったということである。「吹き溜まり」といっても、日本人はここでいろいろな文化を統合して、特異な感性と創造性により世界に類のない独特の文化を築いたわけである。
もし、日本の東に陸が続いていたら(あるいは直ぐ近くに外国があったなら)、吹き溜まりではなく、東西の文明の流れの節として、異なった存在意義をもったであろうし、日本文化もおそらく違っていたろうと想像したりする。

 近代までの日本人の自然観は「花鳥風月」を通して自然の移ろいを観るというものが主で、そこには繊細な感受性が見られるが、自然の理(原理・法則)に対しては関心が薄かった。そのせいかお水取りには天文や自然学に関する要素は見られない。天文歴術 自然学や思想については、中国・インドから学び、日本独自のものはほとんどなかった。それは、主として中国の自然観(気-陰陽-五行)に基づき、天文学は「天人相関」に基づく極星中心の占星歴術が主流であった。高松塚古墳に星座が見られる程度である。

 二月堂に籠もりて
  水とりや氷の僧の沓(くつ)の音   芭蕉
  (二月堂籠もりの僧の下駄の音) 

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