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人口知能(AI)と未来社会
人口知能(AI)と未来社会 

I.学習するコンピューターソフトの出現
 以前のコンピューターは情報を記憶し、必要に応じてその情報を引き出し活用するというもので、情報機器の開発は、記憶容量と計算速度の増進にあった。だが、最近情報機器の開発に(革命的ともいえる)質的変化が起こった。
 単純学習から深層学習(ディープラーニング)への飛躍的進歩-人工知能AIの出現である。 


 介護ロボットが同一人間を長期に世話していると、その人の性格や癖を覚えて、巧く対応できるようになる。最も難しいといわれていたゲーム囲碁で、トップのプロ棋士に勝った。「感情」も芽生えるアンドロイドも現れた。

(1)深層学習とは
 深層学習の成功はAI研究に関する障壁突破(ブレイクスルー)であり、学習方法に関する技術的な大革新であり、AI世界における革命といるだろう。

 深層学習とは、ニューラルネットワークを多層化(特に3層以上のも)したものに対して、脳の研究、特に視覚野の研究や「一つの学習理論(One Learning Theory)」に、スパース・コーディング理論(sparse coding)を基にしたアルゴリズムが実装されたものを指す。
 ニューラルネットワークとは、人の神経を模したネットワーク構造のこと。そのような構造を持った人工知能もそう呼ぶ。このニューラルネットワークでは、神経細胞を模したパーセプトロンと言う小さな計算機をたくさん用意し、一つの計算を協力して行わせるように作られている.。

スパースコーディングとは、大脳の一次視覚野(最も単純で最も初期に活動する視覚野で、静止、または運動する対象に関する情報の処理に特化し、パターン認識に力を発揮する)の情報処理をモデル化した数式のことで、情報表現法の一つである。沢山あるニューロンのうちほんの一部のニューロンだけが活動して、情報の重複をできるだけ抑えて情報を表現する方法。
 人の神経細胞の最大の特徴は一つ一つの神経の繋がりの強さが自在にコントロールされているという点にあり、この繋がりの強さを目的に合わせてコントロールすることで、効率的な計算ができるようになっている。 

 多層ニューラルネットワークに画像などのデータを入力すると、情報が第1層からより深く下層へ伝達されるうちに、各層で学習が繰り返される。この過程で、これまでは画像や音声などそれぞれのデータを手動で設定していた特徴量が自動で計算される。
 特徴量とは、問題の解決に必要な本質的な変数や、特定の概念を特徴づける変数である。この特徴量を発見できれば、あらゆる問題の解決につながる。パターン認識精度の向上や、フレーム問題の解決につながったりすると期待されている。この階層的な特徴量の学習こそ、深層学習が従来の機械学習と決定的に異なる点である。
 特徴選択( feature selection)とは、学習モデルの構築のため、特徴量の集合のなかで意味のある部分集合だけを選択する手法のことを指す。特徴量選択、変数選択、特徴削減、属性選択、素性選択、変数部分集合選択などとも呼ばれる。
この技術は、画像認識や音声認識等の分野に活用される。2012年には、Googleの開発したグーグル・ブレインが、猫の概念を学習することに成功した。何千枚ものいろいろなスタイルの猫の画像を、深層学習ソフトに記憶させると、特徴選択の学習により猫の概念像を自ら作り、「猫」を認識するようになる。
ゲーム(チェス、将棋、囲碁など)ソフトのモンテカルロ法で、不要な枝切りをし、有効な枝を選択するのは特徴選択の例である。

(2)深層学習ソフトの限界と今後の可能性 
 特定の個別分野では、人間を凌ぐ学習ソフトが作られ、かなり高度の行動ができるようになった。だが、現段階の深層学習は、結果や目的の分かっている事柄についてのみ可能であるから、適用範囲が狭く汎用性はない。経験的情報を蓄積し、帰納的に学習する方法(一種のheuristic法)には限界がある。このソフトは、それぞれ限定された目的にのみ適用可能であり、応用範囲は限られている、それゆえ、答えの分かっていない課題へのアプローチ、創造的学習とは異質である。
 人間の本当の優れたところは、起こりうること(可能性)を想定して自ら問題を見出し解決する能力にある。それのできるAIは、演繹的な理論体系(公理あるいは定義から論理的推論によって結果を導く)のアルゴリズムを備えてこそ可能である。特定の分野で人間に勝ったからといって、総合的な能力では人間を超えたとはいえない。
 

 囲碁・将棋などのゲームソフトの「学習」は、主として多くの情報(棋譜)を集めて記憶させ、繰り返し学習することで、法則性を見いだす帰納法による学習である。それは論理的証明に繋がる学習とは異質のものである。パターン認識や囲碁・将棋の学習には帰納法的学習が必要であり、論理的証明(演繹法)の能力は今の段階では要らない。   
ちなみに、演繹的証明法は帰納法的証明よりも遙かに難しいから、それはコンピューターには当分できそうにないと思う。

 ゲームや単一労働などの個別的能力では今のコンピューターは人間を超えることは可能だが、すべての点で、あるいは総合的な能力では容易に人間を超えられない。論証の能力や創造性は、帰納的法則の学習で得られる能力とは次元の異なるものである。つまり、技術的学習には適しているが、問題を自ら見出し探究する想像的学習にはほとんど無力である。それは、いわば技術と科学の違いに対応するだろう。
 人間の意識と思考能力は複雑多岐、かつ高度であり、そのメカニズムは未知な分野が多い。最近の脳の研究でその機能の複雑さ奥深さが改めて認識されている。それゆえ、「人間とは何か」が判るまでは(人間が人間自身を完全に解明することは不可能であるが)大変な年月がいる。それまでは、総合的に人間を超える「知能」は作れないだろう。     

 だからといって侮れないものがある。特定の分野に限定されたとはいえ、この種の深層学習を備えたプログラミングをいろいろな分野で作り、それらを次々に連結統合することで、異質の学習法や人口知能が創発されるかも知れない。AlphaGOが人間の発想にない(考え及ばなかった)新手を打って勝ったように、人間には盲点がある。人間の思考法にない思考の論理が、この種の深層学習の組み合わせから生まれる可能性は否定できない。多体系には単体にはない高度の質が創発する。それは「量による質の転化」の弁証法である。だが、その方法によって何処まで進化しうるか、その予測はまだできない

II.人間の仕事の半分はAIに奪われる?
(1)AIは情報化社会のネットシステムとの結合で威力を発揮する。
 単独のロボットやAI機器はばらばらでは威力に限界があるが、インターネットで結ばれた情報化社会の基盤の上で、AI機器が互いに結合されると相乗効果によりすごい威力を発揮するだろう。
AIの波及効果、活用度はインターネットによって格段に増す。AIによるビッグデータの操作・利用法の発達などその典型例である。

 将来、AIやロボットの技術がさらに進歩した時、AIに人間の仕事が奪われていくだろうが、AIに奪われにくい仕事も多々ある。その中には、人間にしかできない仕事もあれば、人間にやってほしい仕事もある。
 規則的な仕事、ルーチン化されやすい仕事はAIに奪われる。しかし、抽象的概念作りや、協調性が必要な仕事は残る。それでも、人工知能が全く進出しえない仕事はない。
 創造的な仕事は人間の領域だといわれているが、かなりのレベルで小説を書くAIや絵を書くAIは既に作られている。構想は人が与えたが、AIが作文した小説が、ある文学賞の候補になった。AIにも得手不得手はあるが、どんな分野においてもAIは人のライバルになりうるだろう。要は活用次第であり、味方にもライバルにもなりうる。

人間が有位を保てる仕事:大別すると以下の分野が挙げられる
「創造系」 -執筆・デザイン・企画など
「芸術系」 -芸能・映像・音楽・美術・美容など
「発展系」 -研究・開発・ビジネス・政治など
「厚生系」 -医療・福祉・特種な介護など
「教育系」 -教授・指導・養育・訓練など
要するに、新しいもの、創造的なものが必要とされる分野や人間性に深く関わる分野はAI機器に置き換えにくい。

(2)技術革命の歴史:機械とAIの場合の比較
機械化文明からAI化文明へ
・機械文明の特徴:手動技術と科学の結合で動力機械の技術が発達した。動力源は石炭・石油エネルギーである。 
機械の大型化と精密化で量産化と品質を競う-→エネルギー革命を必要とした。
機械技術の発達により、産業革命を起こして物質的豊かさをもたらした。
人間の肉体労働に機械が取って代わった-→資本主義社会の発展を促した(機械打ち壊し運動)。
 物質文明の急速な発展は、人間の精神を変えた:地球支配、環境破壊、消費社会―→精神的荒廃。

AI(情報化)文明の特徴:記憶素子(半導体ダイオード)と情報論理の結合でコンピューター・情報機器が発達-プログラミングの開発→人工知能(AI)、
AI文明の資源は情報、動力源はアルゴリズム。
情報化社会では記憶容量と計算速度の進歩を競争-スピード革命
情報機器の発達、特にAI機器は知能労動の分野で人間の代わりをする。
AIは人間の知的豊かさを増すが、逆に人間の思考力を低下させる。
精神への影響は機械文明よりも大きい-精神革命が起こる?

(3)未来社会
 情報化社会では、グローバル化と同様に、AI化社会は必然的に進む。資本主義社会ではAIは急速に発達するだろう。だが、急激なAI開発は、行き過ぎると危険である。大規模機械技術が公害、環境破壊をもたらしたように、AI公害が起こる。
   
 ロボット、アンドロイドは人間の仕事を奪ってゆき、人間疎外は一層進む。労動システム(技術的・制度的)、生活スタイルは質的に変わる。たとえば、家事・会社の仕事など、すべてのプランを設計し、自動化する。
 家事の一日の全行程の手順を設定し、その指示に従って家事をまかなうようになる。すると、AIやロボットに操られる「ロボット人間」が増える。食事のメニューや日常プランなどを、自分で考案し工夫する必要が無くなり早期ボケ(認知症)が増える。その予防対策が必要となる。

 インターネット社会、ロボット社会は政治・経済の仕組みと社会形態の革命的変化を起こすだろう。会社で人間が直接手を下す仕事は減り、通勤せずに家にいてインターネット通信でかなりの仕事がこなせるようになる。労働形態と賃金体系の合理的システムはどうあるべきかが大きな課題となる。今の社会制度、雇用体系では格差はどんどん拡がる。

 ロボット・アンドロイド技術の開発規制、そのルール作りが必要だが、その規制を破る者がでる。それにどう対処するか。特にテロに利用される危険性をどう防ぐか、またAI機器・ロボットを使った戦争を防止する方法が重要課題となる。

それに対する必要な対策
AI・ロボット技術の進歩した社会での労働と余暇と富の合理的配分。希望する者は誰でも働き、生活に必要な十分な賃金を貰える 制度。特に労動配分(ワークシェア)の制度が不可欠である。
・みなが十分な余暇を持ち、余暇を有効に過ごせる社会の形態は?(豊かさとは何か?)
・ロボットやアンドロイドとの共生(棲み分け)が上手くいく仕組みの社会を。
・地球環境を守りながら人類が生き延びる方法:「持続可能な開発」を維持する科学・技術の開発が可能な政治・経済制度を。

追加:
 AIの進歩発達で人間労動はどんどん奪われていくことは必然である。だが、新たな産業と仕事が登場することも確実である。 昔、しばしば言われたことは、将来技術が進歩して、自動機械化、ロボット化が進むと、人間の労動時間は半分以下になる、そのとき人間は余暇をいかに過ごすかが問題になるだろうと。だが、それは幻想であった。技術の進歩とともに、新たな産業が生まれて別の仕事が現れで、社会の全仕事量は増加し人間の労動量はかえって増えた。その結果、残業や過労死が急増している。
 この不合理な結果は、今の社会制度、経済制度(資本主義)のせいである。なぜならば、以前は、人間の自然発生的欲求(需要)に答えるために技術が開発されてきた。「必要は発明の母」であった。しかし、現代は、新たな技術が開発されると、金儲けのためにそれを利用して必要以上の物作りをし、宣伝による精神操作で無理に需要を創り出している。それが労働力が不足する最大の原因だと思う。 このままでは、AI革命はその失敗をまた繰り返すだろう。
 今の社会制度は複雑化しすぎている。経済ばかりでなく、人間関係も複雑になり余分なものが多すぎるからぎくしゃくする。人間社会は余分な物を切り捨てて、もっとスリムになるべきだ。
 AI技術の開発研究ばかりでなく、むしろ経済の仕組み、社会の仕組みをどうすべきかを真剣に研究すべきである。


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