科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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人類・科学・宇宙
人類・科学・宇宙


 (先日、猪瀬君(私の元研究室の卒業生)が堺市のある教会で、「今、宇宙が面白い」というテーマで市民講座を開いた。私はそこにコメンテーターとして出席を依頼されたので、そこで話すことをまとめた。時間的制約があるので、その中の要点を話したが、以下にそれを載せることにした。講座の後の懇親会でも質問・議論が盛んで面白い会であった。)


1.生物の存在、人類の「業」 

 地球に限らず天体上での生物の発生は物理・化学的には無理なことである。なぜならば、物理学の有名な「エントロピー増大則」という法則があり、それは多体系(多粒子系)に適応される普遍法則である。生物の存在はそのエントロピー増大の法則に逆らう不自然な状態なのである。エントロピーは無秩序性(秩序性の逆)を表す指標であり、ランダムな雑然とした状態はエントロピーが高いという。このエントロピー増大則によれば孤立した閉鎖系ではエントロピーは増大する一方で、減少することはない。 生物の個体は、機能性を備えた秩序だったシステムであり、環境に比してエントロピーが低い状態の体系である。それゆえ、新陳代謝を断った生物個体(孤立閉鎖系)を放置しておけばエントロピーは増大し、やがて崩壊(死滅)する。このように、生物の存在はそれ自体がエントロピー的に無理な状態なのである。生きた個体の状態を維持し、あるいは成長させるには、絶えず新陳代謝によってエントロピーを減少させる(あるいはエントロピーの低い状態を保つ)ような操作を続けなければならない。すなわち、新陳代謝によって低エントロピーのエネルギー(食物)を摂取し、それを利用して生ずる高エントロピーのエネルギーを排泄物と共に環境に放出しているわけである。だから、生物の存在は必然的に環境を変え、そして自然環境を「汚染」する。優位に進化した生物は、新陳代謝を効率よく行うために他の生物を食物にするようになった。生物の食物連鎖はこうして起こった。
 生物誕生以来、地球環境は非常に大きく変化してきた。生物誕生によるこの自然環境の変化は、地球の発展進化とみることができるだろうが、反面からすれば、地球環境の汚染・破壊でもある。生物にとって避けることのできないこの営みは、生物界の食物連鎖と共に、すべての生物の背負った業である。後から出現したにもかかわらず、人類はその頂点にあり、最も業の深い存在である。
 存在自体が無理を強いられている生物が種を維持発展させるために、生存に有利な機能を徐々に獲得してきた。これが種の進化である。ところが、人類は種の生物的進化を待てずに、生存に有利な手段を次々に獲得した。それが科学・技術である。したがって、科学・技術は生まれながらにして人類の業を背負っている。

自然科学について

1.科学とは何か
・自然の謎解き:推理小説が好きな人は多い。自然科学も推理により自然の仕組みを解 きほぐす。
・演繹的理論体系:科学は個別知識や法則を寄せ集めた知識の単なる集合ではない。  基礎概念、原理、法則が有機的な関連を持った演繹的理論体系である。
 すでに知られている自然現象を説明するだけでなく、未知のことを予言する能力を有す。
・科学は文化:自然科学と技術は別:科学は自然の仕組みを認識する活動。
科学は社会的生産活動のなかで、知的欲求により根ざして、経験的知識を理論化し体系化したもの。
 自然に関する科学的知識に基づき自然観を築き、ひいては哲学、人生観の形成に寄与する。科学は最初「自然哲学」であった。
・科学は二つの社会的機能: 科学は自然観や哲学の形勢を通して精神文明に寄与、また技術を通して物質文明に寄与する。
・科学の不完全性:「自然科学とは、自然が人類を通して自然自体を解明する自己反映活動」である。それゆえ、自己言及型の論理であるから、ゲーデルの不完全性定理により、自然科学は不完全である。無矛盾な論理体系は真偽を決定できない命題や矛盾命題(決定不能命題)を持つ。(矛盾命題の例として簡単なものは「私は嘘つきである」、私は正直者としても、嘘つきとしても矛盾に陥る。)すなわち不完全な理論体系である。
 科学は内部矛盾のない理論体系であるから、科学はいくら進歩しても永遠に不完全である。なぜならば、説明できないことをできるように新たな原理(仮定)を設けて新理論をつくっても、それが無矛盾な理論体系である限り、新たな決定不能命題が現れるから。科学は永遠に不完全であるから永遠に無限に発展・進歩する。だが、人類は自然を完全に解明しつくすことはできない。完全な理論に無限に接近するがそこに到達はできない。
それと同様に、人間は人間自体を完全に知り尽くすことはできない。自分のことは自分には分からない(見えない)ところがある。他人の方がよくわかることがある。それゆえ、人間の脳の研究にも限界がある。

2.科学教育について
・日本の科学教育:科学を「役に立つ知識」として教えている(江戸末期、明治以来)。
文化としての科学、科学的自然観の形成が疎かにされている。
自然科学の基礎に自然観があり、それが科学の論理と方法に反映している。近代科学の論理と方法は西欧の自然観に基づいている。 
自然観の変遷:
 古代・中世-目的論(西欧)、輪廻・転生(インド)、道・天命(中国)、自然論(東洋) 近代科学-機械論的、原子論的、数学的自然観、
 現代科学-進化的、階層的、数学的自然観。 
・「科学=技術」と誤解:科学と技術を区別すきである。技術は科学の二つの社会的機能 のうちの一側面である。日本では両者を一つにした「科学技術」という言葉が主流だが「科学・技術」(Science and Technology)とすべきだ。
・何のために科学を学ぶか:科学の知識・法則を憶えて生活に役立てるだけでなく、科学 的論理思考力を養う。「科学とは何か」を学び、科学的自然観を持つことも大切なこと。
 科学的概念は科学の進歩とともに発展進化してきたことを学べば、固定観念の打破に役 立つ。
・科学リテラシー: 現代社会では「科学」は「読み・書き・計算」と並ぶ基礎知識とし て、市民の素養の一つである。

物理学の基礎概念:物質と真空・空間と時間 

1.人類は好奇心の強い生物:人類は古代から自然の成り立ちと仕組みについて、いろいろ思いを巡らせてきた。その主たるものは宇宙観、物質観、生命観である。文明初期の乏しい知識のなかでさえ、想像力を働かせてすでに素晴らしい自然像を描いていた。「天地はどのようにつくられたのか」とか、「万物は何からできているのか」という問題を、古代の人々は深く考えた。人類は何時から、なぜこのような想像と推理の能力を得たのであろうか。その想像力には驚嘆するばかりだ。
人間ほど好奇心が強く、想像力豊かなものはない。目の前の物や現象から、その裏には何があり、またその先はどうなっているのかと、先々と思いを馳せる性質がある。子供の頃から次々に疑問が浮かび、質問して親や先生を困らせた記憶が誰にでもあるだろう。答えが見つかるまで、何年も何十年もかかることもある。けれども“わかりたい”という気持ちは頭のどこかに残っていて、徐々に答えに近づいてゆく。そして、ついに答えが見つかったときの喜びは、何ものにも替えられないものがある。
 ある科学者曰く「偉大なる科学者であるためには、大いなる空想家でなければならない」(逆は真ならず。)

2.物質と真空、空間と時間:自然の成り立ちや仕組みに関する知識の一番基礎になるものは、物理学である。その物理学の基礎となるもの(概念)は、物質と真空、および空間と時間である。すなわち、自然界を造っている物質とはいかなるものか、またその物質が存在する宇宙は有限か無限か。そして空間は、物質とは独立に存在するのか(空の空間、真空はあるのか)というようなことである。
 これらの疑問を人類は二千数百年以前の古代から問い続けてきた。そして、自然の仕組みに関する知識が進むにつれて、自然科学の進歩とともに物質観と真空観は変化してきた。
 「真空」というとまず何を思い浮かべるだろうか。密閉したガラスチューブなど、密閉した容器、その中の空気を抜いて後に残る空の空間を想像するだろう。最初に真空の存在が確認されたのはこのような状態であった。今では宇宙空間を真空と思う人もいるだろう。 しかし、密閉容器から完全に空気を抜き取ることはできない。ごくわずかではあるが、空気の分子が残っている。星のない宇宙空間にも稀薄ではあるが分子がある。では完全な真空はないのか?いや稀薄な原子・分子の間の空間は真空といえる。
 このように、真空とは物質のない空の空間と考えるのは間違いとはいえないが、それは最も素朴な真空観であって、真空とはそれほど単純なものではないことが科学の進歩とともに分かってきたのである。
 物質概念と真空(空間)概念とは密接に関連していて、物理学の基礎をなすものなのである。そして物質と真空(空間)の物理的概念の歴史的変遷(進化)の過程は、「物理学の進歩・発展の指標」ともいえるほど重要なものである。何事もしっかりとした基礎が必要である。基礎を確立して、次のステップに進んでいただきたい。
 そこで、物質概念(物質とは何か)と真空・空間概念が物理学の進歩とともにどのように変わってきたか、そして、現代物理学における物質観と真空・空間観を探ってみれば、そこに展開される物質像と真空像は、いかに複雑で内容豊かなものであるかに驚くにちがいない。このような話は教科書には書かれてないが、物理学とは何かを理解し、物理学の面白さを知るであろう。それによって、さらにその先の自然科学の世界を
空想し、ロマンをかき立てるであろう。

発展・進化の科学 :複雑系の科学

1.「存在の科学」から「発展・進化の科学」へ:プリゴジン
 これまでの科学は、「何がいかに在るか」とその「運動法則」を追究してきた-「存在 の科学」。
 宇宙はビッグバン以後、膨張とともに発展・進化してきた。その中で生物も誕生した。 物質には自己組織化と進化の能力が備わっている。発展・進化の機構と法則を解明しな ければ、自然の仕組みを半分しか認識してない。
 その「発展・進化の科学」が複雑系の科学である。
2.複雑系の科学:非平衡開放系、散逸構造-新たな科学の論理と方法が必要。
3.発展進化の科学は第三科学革命である。第一科学革命は17世紀近代科学の誕生、第二科学革命は20世紀初頭の物理革命。

宇宙の進化について

1.宇宙はミクロのビッグバンから進化してきた。現代科学の自然観は進化的自然観、階 層的自然観。
2.宇宙はまだ若い:元素の存在比(重量比);水素74.6%、ヘリウム23.8%、その他1.6 %。星の中での核融合で重い元素がつくられるが、まだほとんど水素とヘリウムのみ。
 ではなぜ惑星には水素・ヘリウムが少ないか? 
 答えは、太陽系誕生の初期から、水素、ヘリウムなどの軽元素は太陽光線の圧力で外側 に飛ばされたからである。太陽に近い惑星ほど軽元素の比率は小さい。
3.「存在の科学」から「発展・進化の科学」へ。
 物質自体に自己組織化、進化の能力がある。
 複雑系の科学:宇宙、物質(生物も含む)の発展・進化の機構を解明。そのためには新 たな科学の論理と方法が必要である。
4.宇宙は有限か?初めと終わりはあるか。宇宙の果てとは「事象の地平」?、「相対性 論的宇宙」により決まる宇宙の限界と事象の地平は別物。
5.宇宙は一つか? 現代では多宇宙論が有力である。 
 人間原理は疑問。だが、カーターの考察「物理定数の異なる多様な宇宙の形態がある」 との分析は面白い。
 宇宙は無限に奥深く内容豊かである。

宇宙時代の人類
1.地球以外に高度の文明を有する生物(エイリアン)はいるか?
 宇宙に存在する銀河・恒星・惑星の莫大な数(10の22乗個以上)からして、可能
 性はある。
2.だが、人類の歴史は僅か数万年。地球外文明が生まれたとしても、時期的に同時であ る確率は低い。それでも、地球外文明との交信の可能性はある。
3.人類は将来宇宙基地、他の惑星・衛星に住むようになるだろう-宇宙時代。
 宇宙基地で生まれた人間はいかなる進化を遂げるか。やがて地球人類と対立することは ないか?
5.地球環境を破壊し、資源を使い尽くし、地球を使い捨てて宇宙にでるならば、人類は その星をまた使い捨てることを繰し、宇宙のガン細胞のような存在となるだろう。
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