科学・技術と自然環境について、教育を考える。
  • 07«
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • »09
電磁気学のマクスウェル理論の問題点-変位電流は磁場を作るか否か
 電磁気学のマクスウェル理論の問題点-変位電流は磁場を作るか否か                           

 最近、物理教育学会で、電磁気学のマクスウェル方程式の一つ「電流と磁場に関するアンペール・マクスウェルの法則」の解釈を巡って論争が起こっている。ことの起こりは、ある会員の「変位電流の作る磁場の測定法」に関する投稿論文(学会誌『物理教育』)からである。編集委員会は、最近の説では「変位電流は磁場をつくらない」ということになっているからと、この論文の掲載を拒否したことにある。編集委員会の主張は、これまでの「マクスウェルの導入した変位電流は磁場をつくる」と教えてきたことを覆す大問題であるから、このことを巡って論争が起こったわけである。この問題について、編集委員会から私の意見を問われたので、まとめたのが以下の論考である。
 その全文は長く式も多いので、ブログには適さないから、その要旨と導入部をここに書く。全文は『物理教育』の次号(第60巻第1号2012年3月)に掲載される(賛否両論を併せて掲載する特集)ので、それを見ていただきたい。
 

要旨 
 電磁気学のマクスウェル方程式のなかの変位電流について、「変位電流」は存在せず、それは電場の時間的変化を示すだけであり、しかも変位電流が磁場をつくるという旧来の説は誤りであるという新説が、近年唱えられている。その新説の根拠とされる論理と、モデルについて吟味する。相対論的場の量子論による真空の物質性、作用伝達について相対論的遅延効果、および電磁場を媒介とする近接作用の立場を考慮すれば、その新説は疑わしい。「変位電流」は存在し、かつそれは磁場をつくると結論できる。

1.はじめに 
 電磁気学の基礎であるマクスウェル方程式の一つ、アンペール・マクスウェル方程式は下記のように表され、その左辺第2項(∂D/∂t)は変位電流項とよばれる。この項は、電荷・電流の保存則をみたすために不可欠な項である。また、この式は電流Jのないところでも成立するので、この変位電流項からは磁場がつくられると解釈されてきた。 

    ▽×H-∂D/∂t=J ( アンペール・マクスウェル方程式)

 ところが昨今の新説(たとえば、編集委員会の推薦書:太田浩一著『電磁気学の基礎』(シュプリンガー・ジャパン2007) )では、この“変位電流項は電場の時間的変化を与えるものであって「電流」ではない”、そして“変位電流は磁場をつくることはない”と主張される。本稿ではそのことについて考察する。筆者の結論は、「変位電流は真空の分極電流であり実在する、かつ磁場の成因でもある」。

2.「変位電流」の実在性について 
新説では“「変位電流」は電場の時間的変化であって、電流としての実体はない”と主張される。
 変位電流(displacement current)の導入と、その名の由来はマクスウェルにある。彼は電場Eによって誘電体が分極するように、物質が存在しない真空でも空間に電気変位ε0Eが生じ、それによって電流ε0∂E/∂tが生ずると考えた。マクスウェルは、当初、真空中に渦管と荷電粒子の模型を仮定して変位電流項を導いた。そののち彼は、その模型を破棄して真空を埋めつくすエーテルを仮定したが「変位電流」はそのまま残した。つまりマクスウェルはエーテルの緊張状態を仮定することによって、それを電磁場と変位電流の媒質とした。ここに変位電流は伝導電流(conduction current)と対等な電気伝導媒体の地位を得た。
 だが、エーテルの存在が否定された今日では“「変位電流」の名は歴史的遺物であり、電流とよぶのは避けるべきだ”、“真空中では電場が変化しているだけで、電流が流れているわけではない”、したがって“変位電流が磁場をつくるとの考えは誤りである”などの主張がある。以下、本稿ではこれらの主張に対する疑問と反論をのべる。

マクスウェルの渦管と荷電粒子模型は当時としても非現実的であると評判も悪かったようで、のちに彼はそれをエーテル模型で置きかえた。「変位電流項」にも当初疑問がよせられたが、電荷・電流の保存則の成立と電磁波の存在にはそれは不可欠であった。
ちなみに言うと、マクスウェルは実電流が切れる開回路で、たとえばコンデンサーの極板のところで、電荷保存則が成り立つように変位電流を導入したのでなく、最初のモデルから導いたのである。そして重要なことは、閉回路でも非定常電流の場合は変位電流が必要だということである。なぜならば、非定常電流のとき、電流強度は回路上の一点で時々刻々変化し、かつ場所ごとに異なり一様でないから、電流密度の発散▽Jはゼロでない。したがって、非定常電流の回路には時間的に変化する電荷の分布(一般的には場所により異なる)があり、電荷・電流の保存則が成り立つためには変位電流がいるのである。
マクスウェルの予言通り、電磁波の存在がH.R.ヘルツによって実証されてからは、エーテルと変位電流の存在への確信はしだいに定着していった。アインシュタインの相対性理論によってエーテルの存在が否定されると、真空中にも現れる「変位電流」には上記の疑問が再提起された。
 他方、ディラックに始まる相対論的場の量子論では、真空は空虚ではなく粒子・反粒子対で埋めつくされている。真空中の電子は電荷によりその周囲に真空分極(vacuum polarization)をひき起こす(この分極は実状態の電子・陽電子対生成―2mc2以上のエネルギーを必要とする―によるものではなく、仮想状態の対生成によるものである)。この真空分極による遮蔽効果で、電子は裸の電荷より小さい電荷を持った電子として観測される。この真空分極の存在は、くりこみ理論の成功によってもはや否定しえないものとなっている。くりこみ理論の正しさは、電子の質量、異常磁気能率、水素原子のラム・シフトなどについても高い精度で実証されている。つまり今日にあっては真空は空ではなく、「真空の物質性」は否定しえないものとなった。
 したがって、電場によって起こる真空中の粒子・反粒子対の分極にともなう分極電流の実在性は否定しえないであろう。その真空分極はコンデンサーの極板間をみたす誘電体の分極と同じ効果をもつと理解される。

(以下 節の項目のみ)
3.マクスウェル方程式は相対論的共変形-作用伝達の遅延効果
4.電場と磁場の源について積分表式による解釈
5.作用の伝達機構を局所的に見るべし
6.変位電流は磁場をつくらないか
7.まとめ
スポンサーサイト
この記事へのコメント
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
[] 2013/09/29(日) 17:38 [EDIT]

管理者にだけ表示を許可する
 
Copyright © 2005 自然と科学. all rights reserved.