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ヒグス場の発見:標準理論の仕上げ
ヒグス場の発見:標準理論の仕上げ    
 それは新たな発展の始まり

(先月このテーマについて、感想と私見を述べたが、説明不十分で一般の読者には分かりにくいとの意見があった。そこで、少し説明を加えて書き直した。それを再掲する。)


その存在の検証が長年待ち望まれてきたヒグス場(スピン0のスカラー粒子)と認定できる新粒子がついに発見されたと、ジュネーブにあるCERN(欧州合同原子核研究所)が7月4日に発表した。 

 ヒグス粒子の存在については、長い間理論的な議論が続き、加速器による検証が試みられてきた。基礎的4つの相互作用(強、電磁、弱、重力)は根本的には唯一つの統一相互作用であったが、宇宙創生期にその対称性が破れて分岐し、異質の4種相互作用になったというのが「相互作用の統一理論」である。その統一相互作用の分岐は何段階ももの分岐を経て、最後は4種相互作用になったとみなされている。この分岐の機構には、ヒグス場が決定的に重要な役割を演じている。 

 その統一相互作用の一部である「弱電統一相互作用」が分岐して、電磁気力と弱い力になったのだというワインバーグ-サラム-グラショウ理論(1967)の正しさが、実験的に検証された。それ以来、ヒグス場の存在の可能性は非常に高くなり、その発見が待たれていた。なぜならば、元は一つの同質力とみなされる「弱電統一力(相互作用)」の対称性が破れて、異質の電磁気力と弱い力に分岐するときも、このヒグス場の働きが不可欠だからである。弱電統一相互作用の対称性が破れ、相互作用を媒介するゲージ場の一部が質量をえて弱ボゾンになり、質量ゼロのまま残った電磁場と分離したというのである。その対称性の破れと分岐の機構をスカラー粒子の存在を仮定して理論的に示したのがイギリスのP.ヒグスである(1964)。
 
 1960年代に「相互作用の統一理論」が提唱されてから、素粒子の世界を理解する観点が大きく変わった。4つの基礎的相互作用(強、弱、電、重力)はすべてゲージ場の媒介によることを前提として、4種相互作用の大本は唯一つであった。それが宇宙創生期に宇宙膨張とともに温度が降下すると、自発的対称性の破れによって分岐して現在のような4種の異なる相互作用として発現していると想定されている。その統一相互作用の分岐の過程でヒグス場(ヒグス粒子)が重要な役割を演じ、一部のゲージ場と物質粒子に質量を与えるのである。 この観点は宇宙創生と宇宙進化の本質に関わることであり、自然観の転換であった。
 その統一理論のうち、電磁気力と弱い力の統一については、上記のように、その機構が解明され実証されたが、強い力を含めた「大統一理論」に関してはまだ実証されてないし、重力の統一に関してはその理論さえできてない。しかし、この統一理論は大変魅力的であり、ほとんどの素粒子物理学者はその正しさを信じているであろう。
 統一相互作用が分岐する機構の決め手となるヒグス粒子の発見は、画期的なものである。それゆえ、莫大な研究費を投じ、数千人の科学者を動員して何年も掛けて追究してきたわけである。それだけにこの研究に携わってきた研究者の喜びは一入であろう。

 この新粒子がヒグス粒子であることが確定すれば、これで標準理論の基礎はすべて揃ったことになり、ここを出発点として新たな分野への第一歩が踏み出されるだろう。

 だが、ヒグス粒子は一種類だけではない。4種相互作用は少なくとも3段階の分岐で起こると考えられているから(元の統一相互作用の対称性により異なるが)、ヒグス場は3種以上存在するはずである。ただし、重力を除く大統一理論、つまり標準理論の範囲では2種以上のヒグス場があるはず。このたび発見されたヒグス粒子は、陽子同士の正面衝突により発生したものであるから、それは強い相互作用の分岐に関わるヒグス場であろうと思った(ヒグス粒子の崩壊モードに依存して決まる)。だが、実験データーによると、検出器で捉まえたものは弱ボゾンのZ-Z対を経由して4個の軽粒子や2γ(光子)であるとのことだ。それゆえ、弱電相互作用の分岐に関わるヒグス粒子らしい。もしそうなら、強い相互作用の分岐に関わるヒグス場が、それとは別にあるはず。
いずれにせよ、電子-陽電子衝突による検証実験の方が綺麗にできるはずである。
 ちなみに、標準理論を構成する粒子は17種類であると報道されているが、ゲージ場の光子(電磁力)、弱ボゾン(W、Z)、グル-オン(強い力)をそれぞれ区別するこの数え方からすれば18種類以上ということになる。 

今後の問題

1)標準理論には、少なくとも、もう一つのヒグスがあるはず:次は電子・陽電子衝突によるレプトン関連のヒグス場の発見が必要である。 

2)物質(フェルミ粒子)の質量について:真空に縮退した中性ヒグス場が物質粒子(クォーク、軽粒子など)と相互作用をして運動を妨げる。これが物質粒子の慣性質量の素である。それゆえ、慣性質量はヒグス場の粘性抵抗のようなものである。物質粒子の質量はヒグス場との相互作用の大小で決まり、その相互作用が強さに比例して質量も大きくなる。この質量の起源論はそれ以前とは全く異なる説である。

3)等価原理の不思議:ここで問題になるのは、物質の質量に関する等価原理である。物質の質量には2種類あって、粘性抵抗によって生ずる質量は「慣性質量」である。それに対して重力を生む「重力質量」がある。「慣性質量」と「重力質量」とが等価(大きさが同じ)であるというのが「等価原理」であり、それは一般相対性理論の基礎原理である。
 この異質の2種の質量が同等であるという等価原理は、いかにして成り立つのか?この根拠を解明することが大きな問題である。重力場を含めた統一理論が完成すれば、この問題は解決するか、少なくとも解明の手掛かりはえられるだろう。

4)自然界における対立と拮抗:相互作用の対称性、あるいは物質場の対称性が破れるとスカラー場(スピン0のスカラー粒子)が現れる。これを南部-ゴールドストン粒子という。ヒグス場はその一種とみなされる。この南部-ゴールドストン粒子の発生は、対称性が自発的に破れることに対する抵抗とみなせる。なぜならば、このスカラー粒子の発生はエネルギーの高い状態(励起モード)への飛躍だからである。
 一般的に自然界の基礎的現象には、対立と拮抗という2つの傾向が見られる。すなわち、定常状態を維持しようとする傾向(慣性)とその定常性を破ろうとする傾向(作用)があり、両者の拮抗で現実の運動が決まるような機構である。その例は、力学運動における慣性と力、電磁誘導のレンツの法則(電流や磁場の強さを変化させようとすると、その作用を妨げる効果の発生)、熱力学における平衡移動の法則(状態変化を起こす作用を妨げようとする効果の発生:ルシャトリエ-ブラウンの法則)などである。
 相互作用の対称性の破れにより現れるヒグス粒子(南部-ゴールドストン粒子)の発生は、平衡移動の法則の素粒子版である。統一相互作用の対称性が破れることに対する抵抗としてスカラー粒子(ヒグス場)が現れるは、上記のように、励起モードへの飛躍であるから、元の対称性(低エネルギー状態)維持しようとする傾向の一種と見られる。
 ちなみに、基礎的相互作用は弱いほど対称性が破れている。弱い相互作用は既知のすべての対称性が破れている。

5)対称性はなぜ破れるのか:宇宙の創生期の自然界では、すべての存在は対称的であり、粒子の質量もゼロであるとみなされている。それが宇宙初期のビッグバン以後、温度降下とともに対称性が破れて、いろいろな性質が現れたと想定されている。その対称性の破れにより自然の多様性が生じる。自然界の複雑な仕組み(物質の多様性、階層性など)は対称性の破れの結果である。元の対称性を保ったままならば、何の変哲もない一様な宇宙である。
 では、なぜその対称性が破れたのであろうか。その理由はまだ分からない。現在の宇宙における基本的法則として「エントロピー増大の法則」がある。この法則の本質的なところは、状態変化は確率的に起こりやすい方向に起こる傾向があるというものである。単純なものは取り得る状態の数が少ないが、複雑なものはバライアティーが多く取りうる状態数が多いので、物事の変化は複雑な状態の方へ移行する可能性(確率)が高い。対称性の破れはこれと似たところがある。

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