科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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理研の悲劇
理研の悲劇

 理研の再生科学総合センター副センター長笹井芳樹氏の自殺が報じられた。STAP細胞論文の「捏造」とミスの発覚から始まった騒動の中で起こった大きな悲劇である。

 このSTAP細胞論文の事件は、現代の科学研究制度と学会運営の歪みが生んだ結果といえるだろう。熾烈な研究競争の中で生き残るために、研究者の研究姿勢とモラルが徐々低下しに歪められてきた。この現象は日本だけに見られるものでなく、世界的な現象であろう。

 現代の科学研究は、理論分野の特別な研究を除いて、多額の研究費を必要とする。研究費を獲得するために、研究成果を挙げねばならず、無理をして論文を作るようになった。これがデータ捏造・改竄や盗作論文が増える原因である。近年、東大を始め有名大学教授の盗作・捏造論文のニュースを見聞するようになった。それは多分氷山の一角であろうと想像される。 
 
 大学・研究所における研究者の評価は、論文数と論文が一流雑誌に掲載されたことで決まる。評価が上がれば、経常研究費以外に、外部から科研費などいろいろな名目の研究費を獲得できる。あるいは研究成果以外に、学会における人脈や「顔」で研究費を集める者もいる。いずれにせよ、研究費を外から獲得してくる者が、その組織のボスになり実権を握るから、また論文数も増え学会や組織内での評価が上がる。このお陰でその研究組織は大きくなり有名になる。この傾向は、体質の歪んだ学会では悪循環となる。この下地を作ったのが、国・公立大学の独立法人化と大学教員の任期制という文部科学省の政策である。すべて制度は運用の仕方で良くも悪くもなる。日本の風土と現在の社会情勢では悪い方に作用した。 

 現代の科学研究制度の問題点は(1)研究費と装置の肥大化、(2)論文数など(短期の)成果主義による評価、(3)研究者のポストは任期制が多く身分が不安定、そのために短期に成果を出さねばならない、(4)研究が大規模化し、個人や単一組織では不可能となり、多数グループの協同研究が必要、などである。

 (4)の協同研究は、一つの専門分野ではカバーできない複雑な研究課題が多くなっているからであるが、専門化が進みお互いに他分野の研究内容が十分理解できない状態になっている。それゆえ、協同研究ではなく寄り合い研究である。今度のSTAP細胞論文に見られたように、それぞれの大学・研究所のグループ長が他グループのやった内容をきちんと理解していなかった。全体を統括するはずの笹井センター長も指導監督ができていなかった。それでも、論文に名前を連ねるという無責任体制がまかり通るわけである。もっと酷い例は、論文数を増やすために、教授や研究長はその研究に何の寄与がなくとも論文に名前を入れさせることである。(それが慣例になっている分野もある。)

 戦後、理研は研究成果を挙げて評価も高まったので、研究費も組織も肥大化し昔の面影はなくなった。組織が肥大化すれば、統制も取れなくなり、人事や研究組織の運営に歪みが生ずる。それが近年の理研の状態で、理研のこの体質に対して批判的意見はでていた。小保方さんのSTAP細胞騒動の初期から、この事件は個人の問題ではなく、理研の研究組織の問題であるとの指摘はあった。

 STAP細胞の発見では小保方さんを前面に出し、功を焦ったか、マスコミを利用し大宣伝をした。この勝ち誇ったような発表態度と宣伝法は行き過ぎであったろう。STAP細胞研究グループはその反動の大きさに耐えきれず、論文撤回まで追い込まれた。その原因の背景は、肥大化による歪んだ理研の体質と上記のような学会の競争状況とがあるだろう。理研の動きはこの問題を、論文捏造の個人的レベルにして、研究所の責任を逃れようとしているようにとれる。その犠牲になったのが笹井、小保方さんであろう。

 マスコミの報道もそれを助長した。論文捏造と誤りは研究者のモラル違反として批判されるべきだが、問題の本質は理研の組織・運営、および成果主義による金と権威頼みの学会の歪みであると思う。そして、STAP細胞が本当に存在するのか否か、その検証である。マスコミは報道の視点を変えて欲しい。

 小保方さんは笹井氏の自殺により、一層大きな重圧で押しつぶされるかも知れない。笹井氏の小保方さん宛の遺書に、「STAP細胞の存在を実証して欲しい」とあったそうである。小保方さんが本当にSTAP細胞があると思うなら、その重圧に耐えて研究を続け実証して欲しい。

 このようなゴシップは学会のみではない。社会が腐敗すれば、この種の腐敗はすべての業界で浸食するものだ。近年、日本で次々に暴露されたのは、食料産地の偽造、有名レストランの食材・メニューの偽造、警察の報告書の偽造・紛失、原発事故の情報隠蔽と幹部の責任逃れ、など挙げれば切りがないほどである。

 それにしても思うことは、今や人間社会のみでなく、環境汚染による異常気象で自然も破壊されている。自然と社会の破壊、これらはみな人間の「業」のなせる結果である。人類は舵を取り直さなければ自滅するだろう。
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