科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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自己組織化におけるエネルギー,エントロピー,シナジー 
 自己組織化におけるエネルギー,エントロピー,シナジー 

 (これは日本科学者会議総合学術会議の分科会「複雑系科学シンポジウム」で報告したものである。)

  1.はじめに
発展・進化の現象で普遍的、かつ中心的役割を担うものはエネルギー、エントロピー(負情報)およびシナジー(協同性)である。これら3要素は自然界のすべての現象に関連している。
 エネルギー保存則はすべての現象を、エントロピー増大則は多体系すべての現象を普遍的に貫く法則である。シナジーは物質の相互作用により生ずる相互連関性、すなわち協同性であるから、質や機能の創発の基である。これも多体系の現象には普遍的にみられるものであるが、まだ普遍的な法則として定量化されてない。
 
 複雑系の進化現象(創発)の必然的予測は不可能であって、確率的にしか予測できないとプリゴジン派は主張した。確かに発展・進化過程で、いかなる質や機能が創発されるかの予測は、今のところほとんど不可能のように思える。また、非線形法則の場合、発展過程に見られる分岐枝の選択予測はできない。カオス現象の未来の結果を予測することも困難である。
 しかし、既存のアプローチ法では法則化は無理でも、観点を変えれば別の新たな法則性が見えてくるはずだと思い、プリゴジン派の見解に批判的意見を持っていた(『複雑系科学の哲学概論』終章)。たとえば、1体系や2体系にはない物理的概念や物理量が多体系には現れる。温度、圧力、内部エネルギー、エントロピーなどは多体系に特有の概念である。分子統計力学はこれらの物理量を用いて、全く無秩序な分子運動の中に熱統計力学の法則(新たな秩序)を見出した。このように、複雑系現象の中の予測不可能なものでも、観点を変えれば別次元の法則性が発見されるであろう。そのようなアプローチには、普遍的法則であるエネルギー、エントロピーが有効かつ不可欠な役割を果たすと考えられていたが、シナジーも重要である。複雑系科学においてシナジー作用の役割を強調したのはH.ハーケンであるが、まだ定量化も法則化もあまり進んでないので、その役割は未知数である。それゆえ、エントロピー増大則でかなり広範囲の現象が理解されると考えられていた。

2.「コンストラクタル法則」について
 E.ベジャンの「コンストラクタル法則(constructal law)」はまさにその一つであろう。ベジャンは、自然界のすべての事象は、流れの中にあり、その中でシステム(散逸構造)はその構造を存続するために「より良く流れる形に進化する」と捉え、それを「コンストラクタル法則」と呼んだ。この法則は、すべての流動系の構造は「エントロピー生成が最小に近づくように設計されていく」と解釈できる。
 彼はこの法則を普遍的基礎原理に据えた。無生物、生物、機械、社会などすべてのものの発展・進化に適用できると主張し、具体例を挙げて分析している。つまり、自然界のすべての存在はこの法則によってデザインされ、形成されていくというわけである。例えば、河川、樹木、肺の気管などはその中の流れを効率よくするように形成されている。そこにフラクタル構造とスケーリング則がみられるという。
 この観点は自然界の発展・進化の方向(適応進化)は必然的であるとし、それを統一的に捉えた優れたものだと思う。進化はダーウィンのように突然変異によるものでなく、この法則に従って「成るべくして成る」といい、またプリゴジンの予測不可能性や確率的予測を否定する。
コンストラクタル法則は適用範囲が広く、進化の方向を統一的に説明する普遍的法則とみなすことはできるだろう。だが、それは進化の方向を決める現象論的法則といえるだろう。その変化の機構をそのシステムを構成する物質の相互作用に基づいて実体論的に法則化する必要がある。
 E.ベジャンの理論のことを最近知り、それに触発されて次の事を考えた。コンストラクタル法則は、第一近似としてはこれでよいだろうが、それだけでは不十分と思うからである。以下にその理由を列挙する。

3.シナジー効果を考慮した法則を
1)コンストラクタル法則は、物事の構造と進化を、エントロピー増大則をベースにして、現象論的、あるいは構造論的に法則化したが、もう一つ掘り下げて実体論的法則を探るべきだと思う。そのためには、システム構造の形成とその変化を構成要素の相互作用にまで立ち入って解明すべきであろう。それには要素間の相互作用によって生ずるシナジーを考慮する必要がある。

2)ベジャンは、地球圏における種々の形態の「流れの存在」を前提にしているが、そもそも「流れ」は如何にして起こるのか。その流れを生むのは物質の相互作用によって生ずるエネルギーであるが、流れの発生機構も解明すべきである。ベジャンは地球上の流れの源を太陽エネルギーと重力としているが、この法則を宇宙規模で考える場合、もっと広いエネルギー源を採り入れるべきである。また、エントロピー増大則と矛盾しない宇宙進化を論ずるには、宇宙膨張も考慮する必要がある。

3)流れの中での構造変化、すなわち発展・進化はいかなる条件の下で起こるのか。その機構が問題である。それは流れとシステム構造の対立拮抗(摩擦・流圧と抵抗)が臨界点(カオスの縁)に達したときにおこるが、そこに至る過程と機構を分析し、理論化すべきである。変化には進化ばかりでなく退化・崩壊もある。一般的に進化には退化が伴う。

4)流れの中でシステム(散逸構造)を形成するとき、またその構造を維持するために、外形と内部構造が問題になる。流れを良くするには抵抗が少なく、高速流に耐えうる構造が有利である。また内部で使用した高エントロピーのエネルギーを吐き出す有効な機能が必要である。そのためには構成要素間のシナジー(協同性)作用が不可欠である。さらに、システムの構造が変化してより良き構造が創発されるときも、シナジー作用が重要な役割を演ずるはずである。

5)自然界の現象の基礎には、現状維持の傾向(慣性)とそれを否定する外的作用との対立拮抗があり、両者の拮抗の破れで運動・変化が決まる。それゆえ、科学理論はみな二つ以上の原理の組み合わせで構成されている。演繹的体系は相互規定的、あるいは相補的原理の組み合わせで構成されている。
この場合も、エントロピー原理に基づくコンストラクタル法則だけでは不十分であり、その補足としてシナジーと関連する法則が必要である。

4.進化におけるエネルギー・エントロピー・シナジー(協同性)の役割 
 散逸構造は周囲(環境)よりも低エントロピー状態にあるから、その体系を維持するためには、絶えず低エントロピーのエネルギー(物質)を採り入れ、それを利用した後に高エントロピーの老廃物を外部に放出している。これも一種の流れ現象である。その点に関しては、外部から採り入れた低エントロピーエネルギーを効率よく利用する機能および老廃物(高エントロピーのエネルギー)を効率よく排出する機能ほど進化している。すなわち、その利用過程でエントロピー増大率をできるだけ少なくする機能を備えた体系ほど進化しているといえるだろう。
 散逸構造が現状を維持し定常状態を保っているのは、一種の慣性とみなせる。しかし、定常状態は永久に保たれることはなく必ず変化し、進化か退化(崩壊)が起こる。その場合、定常状態を維持しようとする慣性と変化しようとする作用との対立拮抗が常にそこにある。その均衡が破れて変化が起こるとき、その拮抗の破れ方(どちらが優位になるか)により進化・退化の仕方が決まる。
進化はエントロピー生成を少なくする体系への変化であると同時に、その局所的部分に限れば、体系自体がより低いエントロピー状態へ移行する変化でもある。ただし、進化により体系が大きくなると全エントロピーは増大するから、単位体積当たりのエントロピー(エントロピー密度)が減少するという意味である。
 
シナジーと機能の創出について
 機能性を有する状態は、無秩序状態よりも低エントロピーの状態にある。たとえば、多数の分子が並んで膜を作れば機能が生ずるが、ランダム状態の分子状態よりも秩序性のある膜状態の方がエントロピーとエネルギーは低い。ランダム状態から膜状態への転化は相転移である。それゆえ、すべての自己組織化と同様に、機能性の創発はエントロピー増大則に逆らった現象である。
 進化の過程では新たな機能が創発されるが、機能性は構成要素間のシナジー作用(協同性の作用)により生まれる。したがって、エントロピーを減少させるシナジー作用はエントロピー増大則と対立拮抗する。
 シナジー作用は構成要素間の相互作用により低エントロピー状態への転化(進化)を引き起こす。物質の自己組織化では、一般的にシナジー作用によりエネルギーもエントロピーも共に低い状態への転化を伴う。システムの維持には適度の安定性が必要であるから、エネルギー的にも低い状態となる。その転化の際に、エネルギーと共にエントロピーが外部に放出されるわけである。それゆえ、シナジーは引力的相互作用により生成される。ただし、エネルギーが低すぎると機能性は逆に抑制されるから、適度のバランスが必要である。 
 相転移はシステム内の非線形的力によって起こる。体系を維持する傾向(慣性)とそれを破る作用との対立拮抗、あるいはエントロピーを減少させる作用(シナジー力)と増大させる作用(エントロピー力)との対立拮抗が臨界点に達したとき不安定になる。さらに、臨界点を超えると相転移によって体系の構造が変化する(質的転化)。 
 相転移は秩序を保とうとする協力的力(シナジー力)と無秩序へ移行しようとするエントロピー的力との対立拮抗の破れによって引き起こされる。すなわち、エントロピー増大作用と減少作用との対立競合である。例えば、温度が下がり臨界点を超えると協力的力が勝ちエントロピーの低い秩序状態に突如として相転移する。
 
 水を熱して生ずるベナール対流も、水流のシナジー効果により生ずる機能である。対流は熱伝導よりも熱の拡散をよくする。その対流により生ずる6角形模様は秩序性の生成であり、それは水流(対流)のシナジー作用による熱拡散機能の生成である。  

5.エネルギー、エントロピー、およびシナジーの関係
 周知のように、エントロピーはエネルギーの質を区別する指標である。シナジーはエントロピーの質を区別する概念とみなされるだろう。その理由は、同じ分子配列(統計力学的エントロピーは同じ)でも相互作用の違いによりシナジー性は異なるからである。同数の分子が並んで膜を形成する場合、分子配列のパターンが同じなら統計力学的エントロピーは同じである。しかし、それら分子間の結合状態により膜の機能は異なる。
 単なる遮蔽膜なら機能は振動の自由度しかないが、半透膜や透過性のある膜であればさらに高度の機能を有する。透過性の機能は分子配列以外の要因、分子間の相互作用によって生ずるシナジー効果である。それゆえ、構成分子間の相互作用が異なれば膜のシナジー性が異り、膜の機能も変わりうる。このように、統計的エントロピーは同じでも、構成分子のシナジーによりエントロピーの質が異なるといえる(その場合、エネルギー状態も変わるだろう)。それゆえ、シナジー性はエントロピーの質を区別する指標となりうるだろう。シナジー性を採り入れた「エントロピー」は統計力学的エントロピーとは異なる概念であり、単純な加法則は成り立たないだろう。
二種類以上の分子からなるシステムでは、さらに多くのシナジー性が現れるから、エントロピーを区別する仕組みは一層複雑になる。
シナジー性によってエントロピーを区別する指標を定義し、その定量化をする必要があるが、それは難しく、まだそこまで行けない。
上記のように、散逸構造が安定的に維持されるにはシステムのエネルギーとエントロピーがある程度低くなければならないが、余り低すぎると機能性が損なわれる。それゆえ、進化はこの3要素が巧くバランスした新たな状態への転化である。

6.川の流れの例
 水流が定常のときは、川底・岸を維持するシナジー力と水流の圧力とは拮抗しており変化はない。しかし、土砂の堆積で徐々に水流の摩擦(水圧)が増しエントロピー生成が増大するとバランスが破れる。その結果、川幅が徐々に変形し水の流れをよくする。その結果、川岸や川底を作る土砂の新たなシナジー力が生まれて水圧とバランスする。これは水を流れやすくする方向への変化(進化)である。この過程では、水流の摩擦の増加で水圧が徐々に増し、岸壁の抵抗が臨界点に達すると、その拮抗が突如破れて川が変形する一種の相転移である。変形後の川の形は、岸壁や川底の土砂の性質により作り出された新たなシナジー作用と水圧とのバランスにより決まる。
 また、水流が増加し勢いが増す場合の変形もある。水圧(エネルギー)の増大により岸壁の抵抗力と水圧との拮抗が破れ、岸壁のシナジー力が負けて岸壁は水圧に耐えられなくなり決壊する。この決壊/氾濫で無秩序状態となり、エントロピー最大の状態である。その結果、水は流れやすい低地の方に移動することにより川の形が変わる。水は流れやすくなりエントロピー生成は減少し(摩擦力が減少)、川岸の抵抗と水圧が拮抗して定常状態となる。これも一種の相転移である。
いずれにせよ、この対立拮抗する力と、臨界点付近の相転移を定量的に扱える理論が求められる。

 この議論は人間社会の人口移動や物流にも適応できるだろう。

 どんな理論でも最初から完全なものはない。コンストラクタル法則を補足する法則が求められるが、まだ定性的なレベルの問題提起しかできない。

 
参考文献
1.E.ベジャン、J.P.ゼイン著“Design in Nature”
柴田裕之訳『流れとかたち-万物のデザインを決める新たな物理法則』(紀伊國屋書店2013)  
2.H. Haken “ Synrgetics” (1980)
牧島邦夫、小森尚志訳『協同現象の数理』
  東海大学出版会(1980)
3.菅野礼司著『複雑系科学の哲学概論』本の泉社(2013)
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