科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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人工化世界
進む人工化世界:自然と人類の関係


自然と人類の相互関係

 人類に限らず、生物が自然に棲息する限り、自然環境に制約されるばかりでなく、逆に、生命維持のために、必ず自然環境を変える。生命が個体維持のためには必ず自然環境を変える。生物が固体を維持し成長して、生命活動を続けるためには、その個体のエントロピーを減少させるか、少なくとも増大させないような活動を続けなければならない。したがって、生物の存在自体がすでに「閉鎖系におけるエントロピー増大則」という物理法則に逆らう無理な存在である。それゆえ、生物と環境を包含した閉鎖系の中で、生物は固体維持のために散逸開放系として、物理・化学的に無理な活動を常時強いられている。つまり、生物は新陳代謝により、周囲の環境にエントロピーを吐き出すことでその生命体を維持しているわけであるが、その結果、生命活動の反作用として必然的に周囲の環境を変えている。

 地球上に生物が発生してから、地球と生物の相互作用によって地球環境は大きく変わり、両者が共に進化発展してきた。たとえば、地球に生物が誕生してから、ラン藻類などの光合成によって酸素が発生し、窒素を主成分とした大気の組成が、現在のように窒素と酸素を主成分とする大気に変化した。その結果、生命誕生初期の厭気性細胞から酸素を利用する新種の生物が発生した。この大気組成の変化も一種の「環境破壊」である。しかし、その変化は非常に緩慢であったために、生物は生き延び進化してきた(絶滅種も多々あるが)。生物の生理的変化がその変化に着いて行けないような急激な環境変化は「不自然な環境破壊」であり、自然界の活動のバランスが崩れて生態系が破壊される。人類の現在行っている急速な開発による環境変化は、そのバランス維持を破壊している。

 人類の生存繁栄は不可避的に環境に影響を及ぼすから、環境変化は避けられないが、問題はその程度と速度である。環境を破壊するような急激な開発でなく、「持続可能な開発Sustainable Developmemt」、緩やかな発展でなければならない。持続可能な開発とは、厳密に言えば、既存生物の生理的変化が付いていける程度の緩やかな自然の開発利用ということであろう。それを無視した開発は必ずしっぺ返しを受ける。一方的作用はあり得ない、同じ程度の反作用がある。急激な人工的環境変化は多くの種を絶滅させるだけでなく、人類の自滅を招く。

科学・技術の直接効果のみでなく
   二次・三次効果が重要 


 技術による開発の地球環境への影響を評価する場合、その直接的効果、つまり一次効果のみでなく、間接的な第二次、三次効果まで予測しなければならない。この二次、三次効果の予測はシステムが複雑であればあるほど必要である。その高次効果が重要な意義を持つ典型的な事例は、生物の発生(成長)過程に見られる。生物の個体発生は基本的にはDNAに刷り込まれた一次情報に従って進行するが、細胞分裂では同じ二つの細胞が造られるにもかかわらず、発生の成長過程でそれら新細胞は異なる組織に分化して行く。この異組織への分化が起こりうるのは、細胞分裂によって細胞数が増えていくと、重力効果や内部と表面など場所の違いにより二次的効果が生じ、厳密には少しずつ異なる細胞に分裂するからである。この分化は、細胞の配置に応じて、それぞれの細胞のDNA(どの細胞でもすべて同じ)のうち、特定の遺伝子部分が活性化されることで、その特定の遺伝情報が発現されるためだと考えられている。
 この分化は、個体発生が進むほど複雑になるから、環境からの影響も加わり、複雑な三次・四次効果を生み出しているとみるべきであろう。
 このことは個体の発生過程で、DNAには含まれていない高次情報が、細胞の配置や環境からの影響によって、二次・三次と次々に創発されていることを示している。しかも、その二次・三次情報の発現が組織の分化をコントロールして、結果的には大きな役割を演じているわけである。
 したがって、生物の生態系は微妙なバランスの上に成り立っている。その生物圏を含む地球環境のように複雑なシステムでは、人為的操作による直接的効果のみでなく、それによって生ずる二次・三次効果が無視できないことが多い。しかも、この高次効果は、現在の科学・技術レベルでは予測できないものが多いのである。つまり想定外の結果をもたらす可能性が高いわけである。
 さしずめ、遺伝子組み替え技術などは、2次・3次効果として予想しなかった影響がでるように思う。その作用は、遺伝子組み替え種が生態系に及ぼす影響ばかりではない。遺伝子として発現する塩基配列は、DNA全体のごく一部で大部分はまだその役割が分かっていない。だから、遺伝子組み替えの操作中に、その部分が組み変ったとしてもすぐ遺伝変化として影響は表に出ずに、DNAの中に潜んでいる。それが何時どのように働くか予想は全く不可能である。これは隠れた高次効果といえるだろう。
さらに、予測不可能なものにカオス現象がある。多くの要因が非線形的に結合している複雑系には、カオス的現象というものが起こる。カオス現象とは、決定論的法則に支配される系においても、結果が予測できないものである。初期状態のごく僅かな違いが、長時間後には極度に大きな差を生むというものである。すなわち、僅かに異なる状態から出発した二つの系は、その変化の経路が次第に離れていき、長時間後には全く異なる結果(ときには正反対)に到達することがありうる。別の言い方をすれば、不安定な状態にある系では、微少な揺れが次々に拡大されていってとてつもない大きな変化をもたらすことがある。これがカオス現象である。したがって、その法則は分かっていても、予測不可能な結果を生ずることがあるわけだが、上記の二次・三次効果による想定外の影響は、このカオス現象と関連しているものが多い。
 地球は非常に多くの物理・化学的要因が微妙に絡んだ複雑系である。現在のところは、復元力が働いてバランスを保っているが、ひとたびこのバランスが崩れて復元力がなくなると、自然環境の変化はカオス的に進行し、長時間のうちに激変が起こる可能性がある。そうなってはもはや取り返しはつかない。現在、人類はこの急激な自然環境の変化(環境破壊)の中にいると言えるだろう。
 
急速に進む人工化世界

 その中で、人類は人工的自然を次々に造りだしている。街はコンクリートで覆われ、高層・広大ビル、地下街がその典型である。他方では、飛行機、船舶、鉄道などの移動手段の巨大化と高速化、小型ではあるが自動車の氾濫がある。これらも人工世界・人工空間である。家庭では、生活手段として各種機器と装置に埋め尽くされていて、その中で生活している。そして、都市では昼夜の別なく24時間稼働する世界が出現し、人間の生活はそれに合うように強いられ、コントロールされつつある。今後ますますこのような人工世界で育つ人間が増えるであろう。それによって先進国の人間は、自然離れと非自然化とで、精神的、生理的な面で急速に変化しつつある。それはある意味では、宇宙基地や月世界の生活に耐えうる人種を育成準備することにもなっている。それにしても、精神的ストレスは強く貯まるばかりで、このペースでいくと、何時かは精神的に破滅するかも知れない。これも人工化世界の二次効果である。
先に「技術革新により地球環境は救えるか」で述べた、新技術による波及効果も、この二次・三次効果一つである。
 人類はこの辺で立ち止まり、「自然支配的な生き方」から方向転換し、「自然との共生」を図る手だてを真剣に考えるべきである。

人類の活動はすべて自然現象の一つ
 しかしながら、見方を変えて考えてみれば、人類も自然の一部であるから、「人工化」という活動もすべて「自然現象の一環」であるといえる。もし、止まることのない人類の欲望を満たすために技術の高度化と巨大化が進み、急激な環境破壊とそれによる人類の破滅が、必然的で避けがたいものであるならば、そのこと自体も自然の必然的営みであるともいえる。すると、人類による自然破壊も自然現象の中に含まれるから、そのことは「自然の自己否定」、「自己矛盾」を意味する。しかし、人類は理性的判断力を有していることも事実である。人類のその理性と知性によって自らを制御し、環境にマッチした生き方が出来るような存在でもある。そのこと自体もまた、自然の営みの中に含まれるわけである(すべては自然というお釈迦様の手のひらの中というわけである)。
 人間は自然法則の支配から抜けられないが、その範囲で主体的自立性をもって、能動的に行動できる存在である。

 ちなみに、「自然科学は自然自体が、人類を通して自らを解明する自己反映(認識)活動である」と私は考えている。そうなら、自然科学は自己言及型の論理となり、ゲーデルの不完全性定理によって、自然科学は不完全であり、永久に完結しえない。これについて興味ある方は、
 拙著『科学はこうして発展した-科学革命の論理』(せせらぎ出版)を見て下さい。
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