科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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現代科学の課題
現代科学の課題
 
(この小論は「21世紀の唯物論」関西唯物論研究会編 08年3月 に掲載したものです。)
 
20世紀科学革命の到達点 
 20世紀は物理革命を皮切りに、自然科学のすべての分野で飛躍的な発展や革命的転換がなされたと言える。特に、物質科学、宇宙科学、生命科学、そして情報科学の進歩発展は目を見張るばかりである。そして、近代科学の基礎にあった機械論的自然観、原子論的自然観、および数学的自然観のうち、機械論的自然観は進化的自然観に、原子論的自然観は階層的自然観に転換された。また、数学的自然観は引き継がれているが、その数学の質が拡大変様されたことにより、この自然観の内容は変わった。(1)
 物質科学に関しては、超ミクロから超マクロまで階層的構造が明らかになり、それら各階層の特性が解明された。宇宙科学に関しては、ビッグバンに始まる膨張宇宙とその進化の過程がかなり解明され、銀河の分布やブラックホールなど宇宙構造もかなり明らかになった。生命科学の分野では、分子生物学の進歩により、遺伝機構が明らかになり、個体発生や進化の機構から生命の起源に迫りつつある。
 また、20世紀後半から成長した情報科学はサイバネティクスと共に、自然科学・社会科学を横断する普遍科学として重要な位置を占めている。それ以前の自然科学は、主として物質の存在様式を追求してきたが、これ以後は、物質の自己組織化による発展進化の理論に目が向けられるようになった。プリゴジンの言う「存在の科学から発展の科学へ」の時代に入ったわけである。この分野は今では「複雑系の科学」と呼ばれている。
 このような現代科学の質的転換と全面的開花を可能にした背景には、精密高度技術の進歩とコンピュータの発達があったからで、そのことを見落としてはならない。この20世紀における自然科学の転換と発展は、19世紀までの近代科学とは隔世の感がある。

第3の科学革命:物質・生物進化の本質論 
 自然科学のこの全面開花の上に、先の情報科学と相俟って、新たに意識・心・思考を対象とする認知科学が加わった。その中でも、脳の科学は、21世紀における科学の最も重要な課題の一つとして注目される。近代科学の成立を第一革命とするならば、20世紀初頭からの自然科学革命は第2革命であり、この認知科学および生命の起源と物質・生物進化の本質を追求する科学は第三の科学革命に突入しつつあると言えるであろう。
 自然科学は、第3科学革命以前は主として宇宙と物質の存在様式と運動の法則を追究してきたが、物質の自己組織化能力と発展・進化の法則にまで及ばなかった。自然科学としては、物質・生命の発展進化の法則・原理をとらえなければ、自然を半分しか認識してないことになる。19世紀までの博物学、ラマルクやダーヴィンの進化論、メンデルの遺伝法則などは、生物進化に関する現象論であった。第2革命以後は、分子生物学によって遺伝と進化の機構が、タンパク質やDNAなどの構造と機構の解明により大いに進んだ。物質の進化に関しても、開放散逸系の研究から複雑系の科学に至り物質の自己組織化の機構が明らかにされようとしている。したがって、この段階は実体論的認識段階と言えるであろう。第3革命以後、今世紀の自然科学はその本質論的認識段階に踏み込んだと思われる。

科学・技術と社会制度のあり方
 このような自然科学の華やかな発展の反面、技術の急速な進歩によって人類生存を脅かす状況が生まれた。科学・技術の発達により生活は物質的には豊かになったが、精神文明はとりのこされた。その結果、人間の心は歪み、地球環境が破壊されて、人類の生存が脅かされる状態にある。その原因は科学・技術のみにあるのでなく、それを活用する社会制度、資本主義制度にある。それゆえ社会制度と共に科学・技術のあり方が問い直されねばならない。今や否応なしに、地球環境を救いかつ保全する科学・技術が真摯に求められているが、技術的手段のみでは解決できないだろう。一つの環境問題を解決するための新技術は、次の問題を生み出すことが多い。原子力やフロンガスのことを思い出せば充分であろう。環境問題も21世紀における科学(社会科学と自然科学)に課せられた大きな課題である。(2)これらの課題のうち、本稿では、科学のあり方を考察することにしよう。

新たな科学観への転換:自然科学は自然自体の自己反映活動
 西欧中心の近代科学はギリシア以来、人間は自然の外に立って自然を対象化し、自然を客観的に認識するという観点で進められてきた。この方法は20世紀の現代科学にそのまま引き継がれた。しかし、これからの自然科学は、生命の起源や認知科学のように、生命の本質や人間自体を探究の対象にするわけであるから、自然を対象化した認識法には限界があるだろう。
 人類は自然界の物質の自己運動による進化の過程で発生した。したがって人類の誕生は自然現象の中の一つであり、人間は自然の一部である。そして、人間の営為である自然科学も自然の活動の中に含まれる。すると、「自然科学は自然自体が人類を通して自らを解明する自己反映(認識)活動」ということになる。それは自然自体が自らの姿を、自らの手で浮き彫りにするようなものである。
 この科学観は、認識主体が自然の中にあって、内から共感をもって自然を認識するという科学の方法に導くだろう。すると、自然科学の本質に関する新たな側面が見えてくる。第一は、自然科学の理論は、自然が自分自身のことについて述べる自己言及型の論理となるから、ゲーデルの不完全性定理により、科学は不完全な体系にならざるをえない。このことは自己完結的(自己充足的)な科学は不可能であることを示している。この問題については、科学の可能性と限界性として文献(3)、(4)で論じたので省略する。第二は、この科学観は、生物進化の本質論や人間自体を認識対象とする認知科学などの分野(これも自己言及型の論理)において必然的に要請される。さらにこの科学観は、自然を支配し利用するというこれまでの科学・技術のあり方から脱却して、自然との共生を目指す自然科学の基盤としても必要であろう。

新しい科学の方法
 近代科学誕生には、新しい哲学と科学の方法が求められ、デカルトやF・ベーコンらがそれに答えた。これを受けて、実証に基づく近代科学の理論体系が、ガリレイ、ニュートンらによって「実験科学」として確立された。科学の第2革命以前の19世紀には機械論的自然観と力学的自然観に対する疑問が生まれ、ダーウィンの進化論に刺激されて進化的自然観が台頭した。また、放射性元素の発見により不変不滅の原始概念が崩壊し、物質を含めてすべてのものは変化発展するという考えが生まれた。この自然観の変化が絶対と思われていた科学理論(特に物理学)に対する懐疑となって、相対性理論が誕生した。科学の第3革命という転換期にある現代も、同様に、新たな哲学と科学の方法が求められていると思う。 

実証法: 近代科学は、少数例だが不確定要素の少ない観察・実験に基づく直接的実証を目指した。この実証法は現代科学に引き継がれているが、現代科学は理論の高度化に伴って精密化がすすみ、高度の観測・実験技術が要求されるようになってきた。そればかりでなく、理論の厳密化と抽象化によって、科学の体系のなかで理論の役割が非常に重要になっている。実験装置の設計、測定データーの解析とその結果の解釈など全てが理論に依存する。これが「データの理論負荷性」であり、この傾向は今後も増大し続けるだろう。それとともに、実証法は間接的性格が強くなってきた。素粒子論のようなミクロ現象の実証、宇宙論における検証など、直接実験・観測できないものが多い。このような科学分野の実証は、理論依存性が強く間接的実証に頼らざるを得ない。この間接的実証法では、関連するできるだけ多くの現象と諸理論の整合性が重要な意義と役割を有する。この「総合的整合性」による実証法は、繰り返し再現実験ができない進化論(宇宙、生物ともに)や、自己言及型の認知科学の分野の実証についても言えることである。
 このように、科学の質的転換に伴い実証法に関しても新たな方法が必要になると同時に、実証の意味も問い直さなければならない。理論負荷性の強い実験による実証は、その基礎にある理論の検証にもなっているからである。(3)
 科学の方法に関するもう一つの問題は、進化のように長時間の現象、または一回限りの歴史的現象は反復実験不可能ということである。進化現象の他に、繰り返し実験できないものには環境問題もある。このような反復できない現象の検証は総合的整合性に基づく間接的実証法によらざるをえない。もち論、その整合性の判断には反復可能な実証科学の成果を基礎にせざるを得ない。それゆえ、その法則の追究には、既存理論に基づいてモデルとそれを用いた条件変化法によるコンピュータ・シミュレーションが不可欠であり、この方法が今後重要な役割を果たすであろう。また、複雑系科学における物質の自己組織化・進化理論の解明にも、この方法・手段が不可欠である。

条件変化法: 物質の自己組織化や進化の現象でも、その構成要素の素過程を支配する自然法則は決まっている。しかし、初期条件、あるいは境界条件によって、構成要素にはない質の発生(創発emergence)の仕方や発展の方向が変るし、また決定論的法則の下でもカオス的予測不可能な現象も起こる。カオス現象は、微少の条件変化に敏感で、初期条件の無限小変化が長時間のうちに、その結果に無限の(極度に大きな)差をもたらし、ときには質的な差を生む。システムを構成する要素の数とそれらの間の相互作用の絡み合いが複雑多様になればなるほどカオス現象が起こりやすい。自己組織化による秩序形成や発展・進化の科学は、原理的に可能な全ての選択肢を想定し、その中から実際の創発過程が実現される選択原理とその法則を追究しなければならない。進化は突然変異による偶然に支配されるのではなく、物質の有する能動性という内発的要因により自己発展するのであり、そこには必然的な選択原理と法則があるはずである。その際に、どの方向に発展・進化するか、その選択にはカオス的法則が働くようであるが、物質から生命の発生、さらに人類の発生までもすべて、物質の有する自己組織化という創発性によって、起こるべくして起こったと見るべきであることが、複雑系の科学によって解明されつつある。
 全ての可能な創発現象中から、現実の状態を選択する原理、さらには未知の創発現象を予見する法則を見出すには、条件変化法(変分法)が有効性を発揮するだろう。変分法は物理学ではこれまでにも用いられてきた。特に、解析力学の変分原理は、実際に実現される運動経路を「最小作用の原理」によって選択する方法であり、そこには弁証法的論理がみられる。(2)しかしながら、自己組織化や進化の現象は、一般に多種・多数の構成要素からなる複雑系であり、初期条件・境界条件も非常に多様であるから、条件変化の方法も複雑多岐になる。したがって、無原則に条件を変えて観察・実験やシミュレーションをするわけにはいかないから、最小作用の原理のように、変分法を制限し規定するための選択原理を見出さねばならない。その際、構成要素間の相互関係として、相互規定性の観点が必要であろう。宇宙における時空と物質の相互規定的存在原理、ゲージ場と物質場のような力と物質の相互規定性など、それぞれが互いに他の存在の前提になりかつ存在様式を規定しあっている。自然界の基本的なところでは構成要素間のこの相互規定性が存在の理法となっている。この原理は発展進化の原理・法則にも当てはまるはずである。遺伝機構のDNAを中心とする一方的な情報伝達機構を主張したセントラルドグマは正しくない。
 このような方法で問題に応じたモデルを作り、主要な要因となる要素の条件を変化させて、システムの構造的仕組み(構成要素間の連関)を解明するためのコンピュータ実験を行はざるをえない。この方法が理論構成と観察・実験を結ぶ枢要な科学の方法となる。
 
          参考文献
紙数制限のため十分意を尽くせなかったので、以下の文献を参照されたい。
(1)拙著『科学は「自然」をどう語ってきたか』ミネルヴァ書房(1999)
(2)拙稿「人工的世界と人類に未来」『唯物論と現代』第20号(1998)
(3)拙論「新しい科学のための哲学を」『唯物論と現代』第33号(2004)
(4)拙著『科学はこうして発展した-科学革命の論理』せせらぎ出版(2002)
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