科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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進む人工的世界と人類の未来
   進む人工的世界と人類の未来
        -新しい科学のための哲学を- 


1.はじめに
 地球上に生物が発生してから、地球と生物の相互作用によって地球環境も大きく変わりつつ、両者は共に発展進化してきた。大気組成の変化も生物による一種の「環境破壊」であるが、その変化は非常に緩慢であった。それゆえ、多くの生物は環境に適応しつつ生存し続け、進化できた(かなりの数の種は絶滅したが)。
 生物の存在それ自体が「閉鎖系におけるエントロピー増大則」という物理法則に逆らう無理な存在である。個体や種の維持のために、生物は環境を含めた半閉鎖系の中で物理・化学的に無理な活動を常時強いられているから、その反作用として必然的に環境を変える。人類はその最たるものであり、生存に必要以上の活動をして環境を変えている。急激な環境変化は「不自然な環境破壊」であり、自然界のバランスを崩す。人類の生存繁栄により環境変化は避けられないが「持続可能な開発Sustainable Development」でなければならない。持続可能な開発とは、厳密に言えば、その環境の中の生物の生理的変化がついていける程度の緩やかな自然の開発利用ということであろう。 少なくとも多数種の絶滅や人類の生存を脅かすほど急速な開発でなければならない。
 存在の理法:自然界のものはすべて対立物の相互規定の関係にある。作用には必ず反作用が伴う。「環境と生物」の対立物は相互に規定し合って変化発展する。
 科学・技術が指数関数的に発展する全面開花の時代が続いてきたし、今後はさらにその傾向は増す。それに対して何らかの規制が必要である。また、現代は科学の第3革命の時代である。人類と自然の共生のための科学・技術はどうあるべきかが問われている。それに応えうる新しい科学哲学と倫理・価値観が求められている。

2.進む人工化と環境破壊
人工的世界:衣食住が自然から乖離し、その非自然化・非人間化が進むことによってますます心身共に歪んでゆく。
 居住空間:巨大ビル、地下街、高層都市空間、 人工島と人工都市、宇宙ステーション、月面基  地など(すべて金属とコンクリート詰め)、車、 航空機も移動する小型人工空間である。
 食料:多数の添加物、ハウス栽培、養殖魚、動 物・家畜飼育小屋は生産工場である。
 遺伝子組み換え動植物と食物の氾濫。
 食物貯蔵技術の発達や保存食の開発で食事革  命。
 人工合成物質:機能物質、食・飲料物、医薬品、 農薬などの開発・発明。
 情報化社会(ネット社会):大型コンピュータ ・パソコンの普及で情報革命。
 情報の氾濫とスピード化、ロボット化、急速な グローバル化で24時間稼働社会へ。
 世界金融市場:金融商品は実体を伴わない人工 的バブル経済である。金融工学の造り出す人工 的経済社会。

人類の直面する問題
・資源・エネルギー、食料、人口、環境の問題、
・紛争・テロ、核戦争、
・技術開発で社会全体の仕事量増大:ストレス、 過労死 →自己破滅へ突進、
・グロ-バル化:情報化、交通手段、スピード化、・24時間稼働社会、宇宙時代→人類の進化圧の 増大。(道具と火使用、大航海時代に次ぐ)
 特に宇宙や月基地の弱重力や無重力状態で人間 や生物が誕生できるなら、非常に強い進化圧と なる。その人類と地上の人類との共生が問題に なるだろう。

3.自然科学の性格 
 客観性と普遍性(相対的だが)を有する実証可能な理論体系である。その理論は他人に伝達可能であり、社会的にも歴史的にも蓄積可能である。
 人間も自然の一部である。記憶、思考、認識活動もみな高度に組織化された物質系の活動様式、自然現象の一形態である。「自然科学とは自然自体が人類を通して自らを解明する自己反映活動」である。
近代科学の科学観:人間が自然の外に立ち、自然を対象化して客観的に認識する立場。これはキリスト教の階層的自然観「神-人間-自然」の反映であろう。
「自然自体の自己反映活動」の科学観:自然との一体感をもって内から自然を認識する立場へ移行。それは自然支配のための科学ではなく、自然との共生のための科学を築くために必要な科学観であろう。
 また宇宙・物質の自己組織化・進化の科学、認知科学(脳の科学)の論理と方法のベースになる。

・自然科学の可能性と限界
 科学の不完全性:この科学観に立てば、科学は自己言及型の論理となる。
 ゲーデルの不完全性定理が適応され、自然科学の理論体系は不完全で永久に完結しない。
 無矛盾な論理体系は真偽を決定できない命題や自己矛盾的命題を含む。また、その論理体系の中で、自らの論理体系が完全であることを証明できない。
 完全な自然科学は永久に不可能であり、次々に新たな問題が発生して科学理論は永久に発展し続ける。それゆえ、自然自体は自己完結的存在であったとしても、自己完結的科学理論は不可能である。実在の自然の論理に無限に近づきうるのみ。
 人間自体を対象とする科学、認知科学、脳科学などの場合も、必然的に自己言及型の論理となる。
 ゲーデルの不完全性定理は論理の世界の不確定性、ハイゼンベルグの不確定性関係は実在世界における認識の不確定性である。これらのことは、それぞれの世界の内部での自己言及型の論理(認識)の特徴(限界)を示すものである。
実証法の意味と限界:
 科学の高度化で理論の抽象化が進み、実験法とデータの解釈の理論依存性が増すと実証法も間接的になる(データの理論負荷性)。データの解析・解釈に何段もの理論が介在する。
 特に、進化(宇宙、生物)の科学の実証法が問題である。環境科学や進化の科学など歴史性を有する現象は反復実験できないから、実証科学としての論理を確立すべきである。そのために科学的実証の意味を再検討すべきである。
 実証法の推移:間接的(古代)→直接的(近代) →直接+間接的(現代)
 歴史性を担う反復不可能な現象もその素過程は反復可能な現象であり、その総体的積み重ねである。それゆえ、その理論も反復可能な実証科学の理論がベースとなる。
間接的実証には、間接的傍証となる多くの現象間の整合性、そのような現象と理論との整合性が重要な役割を果たす。

4.科学・技術開発で地球環境は救えるか?
 地球環境保全のために技術の開発の必要性が唱えられている。国連を初め各国政府もその方針を打ち出している。環境破壊を防止するには科学・技術の力が有効かつ不可欠である。しかしその方法には限界があるし、逆にその技術も使用法によってはエネルギー消費を増やす結果になったり、新たな環境破壊の要因を生み出す可能性がある。

・技術革新のもつ矛盾  
技術開発の自己増殖:便利さ・能率増大のための技術→拡大応用→次の技術の追究。        これは新技術によるエントロピー増大現象である。
 
 環境保全対策のための科学・技術の開発には、(1)機器・装置の小型化で資源節約、(2)汚染物質の排出量を減少・吸収、(3)代替物質の開発がある。
 科学・技術の開発で、逆に環境汚染を増大したものもある:複写機、コンピュータの小型化、原子力発電、フロンガスなど。
 例:コンピュータの小型化は資源節約になるが、現実はパソコンの普及、新機種の開発競争で、多量の資源浪費を生んだ。
 一つの優れた技術の開発は多方面に応用されて、逆に資源・エネルギーの大量消費をもたらすものがある→環境破壊の拡大再生産。
 科学・技術は次々に自己増殖的な機能を具えている。また、技術開発はその利用法次第で次の技術的問題(良くも悪くも)を生む。
 技術開発による新技術の発明は仕事の能率を大いに上げるが、逆に新たな多量の仕事を作りだし、社会全体の仕事量を増やしてきた。
 例:複写機、ロボット、コンピュータ
 日本では機械化が進んだ結果、むしろ労働時間は延長され残業増、そして過労死がでた。

・現代科学・技術の特徴  
 科学と技術の直結(早期応用)、巨大化、精密化、複雑化、スピード化:だから被害に気づいたときは手遅れになる→事前評価を厳密に。 
 技術の直接効果のみでなく二次・三次効果の予測が重要。
 技術による開発の地球環境への影響を評価する場合、その直接的効果、つまり一次効果のみでなく、間接的な第二次、三次効果まで予測しなければならない。この二次、三次効果の予測はシステムが複雑であればあるほど必要である。
 例:遺伝子組み換え、医薬品など。
 予測不可能なカオス現象:多くの不安定要因が非線形的に結合している複雑系には、カオス的現象が起こりやすい。カオス現象は1次効果すら予測しかねる。
 科学・技術は不完全であり、予測できない落とし穴、欠陥がある。技術への過信は戒めるべきである。
資本主義経済に替わる制度を 
 営利追求の資本主義社会における市場原理を優先する競争社会、この政治・経済制度を改めること。同時に飽くなき利便性を追い求める人類(特に先進国の人)の意識改革なしには、科学・技術革新のみでは地球環境を救うことは不可能である。 資本主義に代わる社会制度は?
  アメリカ主導の新自由主義の上に無規制の市場経済万能主義は破綻した。弱肉強食的自由競争の資本主義に代わる社会制度を改めねばならない。少なくとも必要な規制をし節度ある市場原理に基づく社会をつくること。

5.新たな科学のための哲学を 
 新たな科学時代に相応しい科学観とともに、新自然観、新倫理観が必要である。
科学革命の過程 
第一革命:近代科学の成立。ニュートン力学を皮切りに実証科学、その自然観は原子論的自然観、 機械論的自然観、数学的自然観。
第二革命:20世紀初頭の物理革命から始まる自然科学革命、分子生物学、宇宙科学、情報科学。 自然観は階層的自然観、進化的自然観、新数学的自然観。
第三革命:21世紀は物質の自己組織化・進化の科学(複雑系の科学)、認知科学(心、脳)。

 第三科学革命以前は主として宇宙と物質の存在様式と運動の法則を追究してきたが、物質の自己組織化能力と発展・進化の法則にまで及ばなかった。自然科学としては、宇宙・物質・生命の発展進化の法則・原理を捉えなければ、自然を半分しか認識してない。

科学革命の度に新たな哲学が誕生 古代科学の誕生期に自然哲学が生まれた。近代科学の誕生には、新しい哲学と科学の方法が求められ、デカルトやF・ベーコンらがそれに答えた。帰納・演繹の理論体系、帰納的実証科学の方法がそれである。第二革命以前の19世紀には機械論的自然観と力学的自然観に対する疑問から進化的自然観が台頭した。相対性理論、量子論の誕生で科学理論の絶対性が否定され自然認識の意味が問い直された。第三革命の現代も新たな哲学と科学の方法が求められていると思う。 

新しい哲学の目指すもの
1)新たな哲学・倫理:科学的自然観の確立→自然界における人類の占める位置の自覚、宇宙時代の倫理を築くこと→価値観の転換。
2)科学の課題の選択と応用には感性・悟性・理性の共同による総合判断が必要。
 人間も自然の一部であることを意識し、自然を内から認識する立場での科学観を(人間中心主義ではなく自然中心主義で)。
 自然支配、自然の一方的利用ではなく、自然環境の保全、自然との共生を目指すための科学・技術を。
3)グロ-バル化時代の「世界科学」:一文化圏の自然観と論理・思考法に基づく科学ではなく、全人類の共同で科学は築かれる。(近代科学は西欧文化圏の自然観と論理で築かれたもの。)
4)科学の方法:シミュレーションの活用(条件変化法)、間接的実証性の論理の確立が必要。
 特に発展・進化の科学や環境科学など、反復実験できない分野では、思考実験・シミュレーションを有効に活用すべし。条件を変えてシミュレーションするための指導原理となる「変分原理」を見出すこと。(例:、解析力学の「最小作用の原理」)
 宇宙科学、複雑系科学、頭脳科学、環境科学などで有力な手段となりうる。シミュレーションは科学的世界(対象的世界)における人工的世界である。
 認識手法:上から下への分析的手法と、全体を上からマクロ的にみる手法の2つを合わせたアプローチが必要である(上からと下からのアプローチ)。その上にたった分析と総合を。
5)自然科学と社会科学を包括する科学哲学を:
 未来の人間社会のあり方(政治・経済)の新理念を築くこと。
 また宇宙時代の人類が地球・太陽系でどう生きるか、その人生観・価値観を造ること。
6)科学者の社会的責任とモラル:研究成果の行方、社会への影響を考慮することが必要。
 自然科学の研究分野は急速に拡がり、不測の発見や危険な研究開発が行われる可能性がある。想定外の危険な事態を生む可能性のある研究は規制しなければならない。
 そのための哲学・倫理と研究規制の条件を設定するひつようがある。環境アセスメントと同様に、科学研究アセスメントと科学者のモラルが求められる。

6.おわりに
 人類は自然の一部であり人類の営為もすべて自然現象の一形態であるとなると、人工化の進行も、超自然的「神」の支配によるものでなく、自然自らのなせる業である。さらに戦争も環境破壊も自然の自己運動・進化のなせる業であるとして容認されかねない。しかし、生物には自己保存、種の保存本能がある。さらに人間には理性があり、倫理観も具わっている。それにより自らの行動を律し、規制する能力がある。これも自然のなせる業である。科学・技術時代の自己破滅を避け、自然との共生、平和な社会を築くための哲学、人生観を築かねばならない。同時に、新たな社会制度の理念と形態も。

    参考文献
詳論は筆者の以下の文献を参照されたい:
1.「人工的世界と人類の未来」『唯物論と現代』
No.20,1998.
2.「新しい科学のための哲学を」『唯物論と現代』
 No.33,2004.
3.「現代科学の課題」『21世紀の唯物論』
 (関西唯物論研究会編)2008.
4.『科学は自然をどう語ってきたか』ミネルヴ ァ書房,1999.
5.『科学はこうして発展した』せせらぎ出版
 2002.
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