科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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対称性の破れと相互作用の階層性
 対称性の破れと相互作用の階層性
    --自然界の階層構造と多様性を生むもと--



  (これは日本科学者会議大阪支部の「ノーベル物理学賞受賞記念学習会」で話すものです)

 今年度3人のノーベル物理学賞は、南部陽一郎氏「自発的対称性の破れ」、小林誠・益川敏英氏「CP対称性の破れ」に対して与えられた。この理論の解説と、この理論が素粒子論においていかなる意義があるか、そして宇宙創生以来の自然界の多様性と階層構造を生んだ基礎的要因とこの理論との関連を説明する。さらに、目に見えないミクロ世界の素粒子論における実証法も合わせて考察する。

1.自然界における物質の階層性
 マクロな物質を分解していくと分子、原子に到達。19世紀末までは原子(atom)は不変・不可分な実体とされていた。放射性元素の発見から原子は可変、分解可能な構造を有することに気づいた。20世紀初頭、原子は原子核とそれを取り囲む電子とからなること、さらに原子核は陽子と中性子からなることが解明された。
 電子、ニュートリノ、核子(陽子・中性子)、中間子などはこれ以上分解できない実体と見なし、素粒子と名づけた。その後多数の素粒子が発見され、素粒子もクォークからなることが明らかになった。またしても、素粒子という名は実態にそぐわなくなった。
 マクロ物質から上に向かって、惑星-恒星系-銀河--という階層があることが判明した。物質分布は連続的でなく、切れ目のある階層をなしている。自然界は上層にも下層にも階層構造をしている。自然の豊かさと奥深さを示すもの。

物質分布の階層性:
宇宙-超銀河-銀河団-銀河-恒星系-地球(惑星)-マクロ物質
           -分子・原子-素粒子-クォーク-この下(サブクォーク)?                    ↓                                                           有機分子-細胞-組織-器官-個体種-生態系-生物界
 
 この階層系列は有限か無限かはわからない。多宇宙の可能性、サブクォークの可能性もある。坂田は無限階層を湯川は有限階層を主張。

各階層に固有の構造と法則
 物質の階層は、単なる空間的大きさで物質分布を区切っただけのものではない。各階層には、それぞれ性質とスケールの異なる物質で構成され、特有の構造がある。したがって、階層ごとに質的にも異なる特性がある。
 それぞれの階層を構成する物質と階層構造はみな異なり、構成要素の物質を結合している力は異なるから法則性もさまざまである。
その違いをもたらすものは物質間の相互作用(力)の差異である。

2.相互作用(力)の階層性
 物質の本性は運動と相互作用(力)である。相互作用がなければ、運動もなく、物質の存在も属性も認識できない。物質の属性はむしろ相互作用によって決まるといえる。
 相互作用は自然界のあり方を規定する最も重要な働きをしている。すべての根源は物質間の相互作用にあるといえる。
 相互作用にはいろいろな種類があり、それぞれ性質(働き)の違いがある。この相互作用の多様性の由来は、相互作用の特性の多様性と階層性にある。

相互作用(力)の働き方の3性質
 力学的相互作用(力)の働きを区別する重要な性質として3要素がある:
(1)力が作用する物質の属性、(2)力の強さ、3)力の到達距離
 (1)の意味は、電気力は電荷を帯びた物質間にのみ働き、電気的中性の物質には働かない。また、核力は核子(陽子、中性子)の間に働き、電子間や原子間には働かない。それぞれの力が作用するのはそれに対応した特定の属性をもった物質のみである。
 (2)強さに非常に強い力から弱い力まである。核力は非常に強く、電気力は中程度、重力は非常に弱い。化学結合力である原子間力は電気力より弱いが中程度の強さである。
 (3)の到達距離は、その力が及ぶ範囲の長短である。電気力や重力は無限遠まで作用は及ぶが、原子間力は原子の大きさの数倍程度、核力は原子核の大きさ程度で非常に短い。
・力の到達距離がすべて同じで、物質種に区別なく働けば、物質の階層性はない。
・強い力の到達距離が無限大ならば、宇宙は強い力で一色に塗りつぶされ、自然界の多様 性は生じない。 
相互作用の階層性
 物質の階層性を生み出す本は相互作用の階層性にある。
素粒子・クォーク間に作用する力を基礎的相互作用といい、4種類ある。
  強さの順に:強い力、電磁気力、弱い力、重力 (1次相互作用)
基礎的相互作用はすべてゲージ場を媒介とするゲージ力である。この中で、重力は他の 3つとは異質なところがある。

基礎的相互作用を1次相互作用として、次々に2次、3次相互作用が派生する。
 2次相互作用:原子間力(核力、化学結合力など)
 3次相互作用:分子間力(ファン・デル・ワールス力)
 4次相互作用:弾性力、圧力など
 1次力から4次力まで階層的構造をしていて、それぞれ力の作用に関する3性質を備えている。力の作用の3性質と力の階層性により、多種多様な力が存在し、物質の階層性と自然界の多様性を造り出している本である。
 
3.素粒子の世界
 原子・素粒子などミクロ物質は、マクロ物質とは異なる量子的特性を有している。
 ・二重性:粒子性(局在性)と波動性(非局在性、干渉性)
 ・不確定性関係:位置と運動量は同時に確定できない
 ・粒子の状態を表す波動関数:運動は必然的法則、観測は確率法則
 
物質観の転換
 ・二重性、 ・質量とエネルギーの同等性、 ・物質と反物質、 ・真空は空でない
  相対論的場の量子論→反粒子:真空から粒子-反粒子の対発生・対消滅

4.対称性とは、その破れとは?
  (以下4.~6.は雑誌『化学』2008年12月号に南部、小林・益川理論について解説したものを  参照。次のブログにそれを掲載する予定。)

素粒子の対称性:外部対称性と内部対称性
 対称性の破れ:相互作用による破れと真空の対称性の破れによるもの
要因:外部作用による破れと自発的対称性の破れ(内的相互作用による)、

5.南部理論と小林・益川理論について
 対称性の破れた相互作用:弱い相互作用-CP対称性の破れ
 自発的対称性の破れ:真空(基底状態)の対称性の破れ
 (無限多体系の内部相互作用による)

6.相互作用の統一理論
根元は一つの相互作用が自発的対称性の破れで分岐し、強、電、弱、重力相互作用が 生まれた。

7.宇宙創生期における対称性の破れ:反物質は消えた
 宇宙創生期のビッグバンで、真空からクォーク-反クォーク対、電子-陽電子対などの軽粒子対が多量に発生し、光子、グルーオンなどと共に混沌としたスープ状態ができた。そのスープの中で粒子-反粒子は対消滅したり対発生を繰り返していた。 (図)
 もし、粒子の世界と反粒子の世界の法則が全く同じならば、このスープ宇宙はその状態を繰り返しながら膨張していったろう。その場合は、その宇宙は粒子と反粒子とが同数存在する世界となったろう。あるいは粒子と反粒子は分離して別の世界を造ったかも知れない。そうならば、私たちの住む宇宙とは対称的な反物質からなる反宇宙がどこかにあるはずである。しかし、その形跡は見あたらない。

 CP対称性の破れは、粒子の世界と反粒子の世界の法則はわずかに異なっていることを示している。そして相互作用の大統一理論によれば、粒子と反粒子とは相互に転化する可能性がある。すると、ビッグバン以後の宇宙の膨張過程で、反粒子のわずかなものが粒子に変わったとすれば、現在このような粒子のみの世界ができたと推定できる。

8.自然科学の実証性
自然科学理論の正しさを保証しているものは観察・実験による検証である。これが近代科学以後の実証科学の特性である。
 自然科学の理論はすでに分かっている自然現象を論理整合的に説明できるだけでなく、未知の領域や現象について予言能力がなければならない。既知の現象を巧く説明する理論は一つとは限らず複数存在しうる。それゆえ、予言能力のない理論(その段階ではまだ仮説である)は、その正しさを検証する方法がなく、永久に仮説のままで止まる。

 実証科学:理論による演繹(予言)-観察・実験-理論の検証
このサイクルで、自然科学は進歩発展する。

実証法の変化発展過程
 自然科学における実証性の意味を、歴史的に大筋を振り返えることによって、実証法が科学の発展とともにどのとうに変化してきたかを一通り握んでおこう。

古典科学:間接的実証法 
 思弁的な推論ばかりではなく、経験・観察を拠り所として、多数の間接的傍証をもとに理論を組み立てた。さらにその理論からの演繹的推論で自然認識を深めていった。
 典型例は古代ギリシアとインドの原子論。観察による多数の間接的傍証から原子の存在 を推測した。(エピクロス流の原子論は暗闇に差し込む光線の中に見える微粒子の運動(チンダル現象)、ルビーの様な宝石を細かく砕くと宝石の色は失せて白い粉末になるなど。)

  間接的実証法の論理:多数の傍証例の整合性

近代科学:直接的実証法
 科学の方法の重要な柱として、観測・実験による検証方法を確立した。理論の客観性と確実性を裏付けるための実験法が意識的に工夫され開発されてきた。観測・実験による実証の意義を認識し、直接的実証法を意識的に求めた。
近代科学の「直接的」実証法は、少数例ではあるが典型的実験を工夫し、曖昧さの少ない解釈により明確な結論を引き出す方法である。
 例:真空の存在を証明するのに、水銀柱を用いたトリチェリーの実験がそれである。さらに水銀柱の上の中空が真空であること、およびその原因が大気圧であることを確認するために、山頂で実験を行ったりさらに水銀柱の上の中空が真空であること、およびその原因が大気圧であることを確認するために、ついには真空中での水銀柱実験を考案するところまでいったパスカルの実験がある。また、ガリレイは落下法則や慣性法則を導くのに、思考実験による推論と経験を合わせて用い、得られた法則を斜面を用いて検証した。

理論の役割:
 実験のデザインや装置の設定に前もって理論的考察(思考実験)が必要。
 データの解析、解釈に理論が不可欠。

現代科学:間接的+直接的実証
 現代科学の認識対象は、直接五感に訴えて認識できないものの方が圧倒的に多い。
理論の高度化に伴って、抽象化・精密化が進み、高度の観測・実験技術が要求されるようになってきた。その結果、科学の体系のなかで理論の役割が益々重要になっている。
 実験設計、測定データーの解析と結果の解釈など全てが理論に強く依存→「データの理論負荷性」は非常に強く、今後も増大し続ける。
 観測手段と測定値の解釈には何重にも理論のフィルターを透さねばならないもの。
例:素粒子論実験・宇宙論の検証法はその典型。

 素粒子は直接観測できないから、素粒子が通過した跡にできるイオン化された銀粒子の点列か、あるいは泡箱のなかの泡の点列を見て素粒子の飛跡と解釈している。その点列の状態から素粒子のエネルギー・運動量や種類を推定。この解釈ができるのは、確立された既存の理論を用いた技術のお陰である。クォークは単独では取り出せず素粒子のなかに閉じ込められている。それ故、クォークの観測は、高エネルギー素粒子を衝突させ、途中まで出てきたクォークが作る素粒子の束(ジェット)を捕まえる。ジェットの発生状態(図)から、そのジェットはクォークの成れの果てと解釈するのである。クォークの観測はその素粒子の飛跡の束を見るのであるから、もう一段理論を重ねた解釈を必要とするのである。
ブラックホール(その中から一切の情報が出てこない)の存在の検証法も何段階も理論が介在している。この他に、地球の内部構造、太陽内部の核反応の状況なども、確立された物理学の理論を用いて間接的情報によって実証せざるをえない例は多い。 

 このような場合、少数例による直接的実証はもはや不可能である。どの実験も確かな結論に導くには不十分であって、あの手この手を使って、多面的に実験を行い、それらの結果を総合して結論をださざるをえない。その過程で必然的に理論が強く介在する。決定的検証法がない場合には、間接的でも証例を多数揃え、それらの間の整合性を要求する、いわゆる総合的判断による間接的検証とせざるをえない。 現代科学にも、直接的実証法が可能なものもあるが、間接的方法にたよらざるをえない分野が非常に多くなっているのが特徴である。
 また、永久に再現性のない実験データーは科学データーとはいえず、やがて捨てさられる。また、予言性のない理論は仮設-演繹-検証のルートに載らないので、科学理論とはいえない。このように科学の進歩とともに実証法も変わってきた。このことは自然認識としての科学の意味、ひいては自然観にも反映されてきた。

実証性の論理   
科学的実証法は科学の発展過程において古代から、間接的-直接的-間接的方法というサイクルを経て転換してきたが、古代の間接的方法と現代のそれとは質的に異なる。現代の間接法は高度の理論に基づく複雑な実験に頼らざるをえないのがその理由であって、その実験法は可能な限り副次的要因を排除して目的意識的に自然に問いかけることにより、できるだけ確実な直接的情報を取り出すことを意図している。そのデーターや情報に基づき総合的に判断する。したがって、現代科学の実証法は間接的方法と直接的方法、すなはち分析・総合という複合的性格を強くもっている。
 通常、間接的方法と直接的方法の間に明確な一線を画することはできない。しかし、程度(量)の差は質的区別をもたらすから、両者の区別は意味がある。このことを前提として、現代科学および将来の科学において益々増大するであろう「間接的実証」の方法とその有効性について考察してみよう。

 一般に、ごく限られた少数の現象を説明するだけならば、幾つもの理論が可能である。極端な場合、オカルトでも可能である。しかし、非常に多くの現象や経験事実を説明しえて、矛盾のない理論(そのためには当然他の既存理論とも整合的でなければならない)は非常に少なく、大抵の理論は篩(フルイ)にかけられて失格する。したがって、多くの種類の観察・実験データと同時に、他の全ての理論との整合性をもって、間接的ではあるが「科学的実証」としうる。
 この実証法が妥当であり得るためには、自然界における実体と自然法則に関する均一性と斉一性が前提とされる。この前提なしには、再現性も不可能であるし、地球上で得られた法則を遠い太陽や銀河系に適用できないから、理論の整合性は要請しえない。太陽中心の温度を推定し、核反応が太陽のエネルギー源であることを推測し得るのもこの均一性と斉一性のゆえである。
 こうして間接的実証法でも科学的実証法となりうるが、その有効性や確実性にはやはり一定の限界がある。例えば、古代原子論は間接的実証法ではあったが原子の存在を推測し、近代科学を経て19世紀末から20世紀初頭にその存在が実証された。確かに原子は存在した。しかし、それは当初予想した物質の究極的実体ではなく、構造のある複合体であった。このように現代物質観は原子の存在を認めつつも、原子は自然の階層構造の中の一つの節として、化学反応における実体であって、古代原子概念とはかなり掛け離れたものである。この物質に関する階層的実体論は直接的実証法と間接的実証法との積み重ねの結果えられたものである。ここに間接的実証法の有効性とその限界がある。自然認識には要素分解の分析法と全体的判断の総合との協力が必要である。したがって、現代科学の間接的実証法の有効性と限界、すなわち、その確かさを評価しうる論理と基準を体系化しなければならない。それは情報理論のもう一つの課題であろう。

 将来一層重要となる歴史性をもつ現象(宇宙進化、物質の発展・進化、生物進化)に関する実証性の問題はさらに難しいが、興味あるものである。歴史的現象には反復不可能なものが多いため、実験による検証ができない。反復実験できないということでは、公害や環境破壊の原因解明にも共通している。
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