科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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市民社会における科学の役割
  現代市民社会における科学の役割
     (これは先に載せていたレジュメに加筆し成文化したものです。)
 
要旨             
 現代社会では科学・技術は個人レベルから地球規模に至るまで私たちの生活を支配して、精神構造まで変えつつある。今や科学・技術は政治経済を動かす力を有しているが、現代市民社会の抱えている諸問題は科学・技術のみでは解決できない。社会制度と共にその役割を正しく評価すべきである。

1.「市民社会とは」

市民社会とは何かという定義については、見方によっていろいろあるだろう。ここでは通常の意味で、「個人(市民)が自ら主体的に社会を構築していくことのできる社会」とする。
  市民社会は、封建的社会の身分制を廃し、自由・平等の権利を有する社会を目指して、資本主義と共に生まれ、成立してきた。
  そこで、政府、地方自治体、民間企業、NPO,家族などすべての構成員は良き市民社会を築くために協力・貢献する道義的義務があると思う。
 
現代市民社会の特徴:
・精神文化に対して物質文化が突出ていて、物質生活は豊になり生活は便利になったが、価値観が多様化されて生きる目的も多様になった。
・情報化社会と共に通信・交通・運輸の発達で地球は狭くなり、政治・経済および文化のグローバル化は必然である。
・社会の仕組みが複雑化し、かつスピード化したために人間の精神的ストレスが増大した。
 資本主義下での市場原理は不安定な経済機構であり、経済的不況とバブルを繰り返し、地域・個人格差と貧富の格差を拡大してきた。
・今や人類は、環境、資源・エネルギー、食料問題を国境を越えて地球規模で抱えている。特に温暖化、大気・海水汚染など環境問題に国境はない。  
 これらの状況の根底に科学・技術の発展と資本主義制度がある。
・現代は市民社会の危機として政治・経済の歪み、環境悪化以外に、議会制民主主義機能の衰退が挙げられる。身分制封建社会から脱した市民社会の制度のなかで、社会運営の良き制度として民主主義制度があった。その具体化が議会制民主主義であるが、それが正しく機能しなくなっては、市民社会の危機である。 

 近年は市民社会に逆行する動きの方が強い。市民社会の長所と欠陥を検討し、見直しが必要である。そして新たな社会制度の可能性を模索すべきであろう。  

2.科学の社会的役割の歴史

 科学は一種の文化であり、科学は二つの社会的役割を有する。
第一は精神文明への寄与:科学革命ごとに新哲学が誕生した、自然観と哲学の形成に不可欠な要素であり、ひいては人生観に影響を及ぼしてきた。
第二は物質文明への寄与:技術と結合して物質的生活を豊にし、自然の脅威から身を守る役割を果たしてきた。
 科学は人類社会を底辺から支え、社会進化の原動力であった。それゆえ、科学の役割を無視して人類の歴史は語れない。
   
 自然科学はこれまで3回の科学革命を経てきた。新しい科学の誕生とともにその科学の社会的役割も変わってきた。現代市民社会での科学の役割を的確に理解するには過去からのことを知っておく必要があるから、その過程を概観しておこう。

近代科学:17世紀の第1次科学革命
 初めて実証科学として、論理と方法が築かれた。それはニュートン力学によって成立した。
近代科学の基礎にある自然観:機械論的・原子論的・数学的自然観がり、それら自然観が近代科学の論理と方法に反映されている。これら自然観の基礎にデカルトの物質と精神の二元論がある。その後、力学的自然観が生まれ定着した。
 信仰の時代から理性の時代へ:科学、特に物理学は宇宙の運行に関して(最初の神の一撃を除いて)神を必要としない論理を確立したので、宗教の支配から独立していった。また後に、自然哲学から分離・独立し独自の分科を築いた。
 科学の役割:F.ベーコン-は「知は力なり」といって、科学を振興した。それはやがてキリスト教の「神-人間-自然」という階層的自然観とともに自然支配の思想を生んだ。
科学は技術と結合して産業革命を成し遂げた。それにより社会生活を変革して生活を豊かにし、また、国威発揚、富国強兵に利用された。
 科学的自然観の構築:哲学・思想ひいては人生観の変革をもたらし、理性の時代に相応しい啓蒙思想を興隆させた。 とくにフランス啓蒙思想(百科全書派)は市民を目覚めさせ自由・平等・博愛のフランス革命の引き金となった。
 科学は社会の制度となり、職業としての科学者が誕生した(バナール)。そのため科学の社会的機能が強く意識されるようになった。

 19世紀の末に、物理学は自然の原理をすべて手にしたとの自負があった(ケルビン卿の講演)。しかし、それは幻想であった。

現代科学:20世紀の第2次科学革命
 20世紀初頭にアインシュタインの相対性理論が誕生し、1925年に量子論が築かれたことで、近代科学の適用限界が明らかになった。特に、量子論は自然の深さを改めて意識させ、自然科学の意味を再検討することを余儀なくさせた。これが第2次科学革命である。

 自然観の転換:原子論的自然観は階層的自然観へ、機械的自然観は進化的自然観へ移行した。数学的自然観は引き継がれたが、その内容はさらに深められた。
現代科学の特徴:自然科学のすべての分野が全面開花(分子生物学、宇宙物理学、情報科学など)し、装置・予算規模の巨大化と測定技術の精密化が進むと同時に、科学と技術が密接に結合した。
 科学・技術は政治・経済を動かす力を持つまでに成長したが、逆に政治からの直接的コントロールが強くなって国威発揚に利用され、国力のシンボル化になった。そのため研究予算配分が目先の研究動向に引きずられて歪みを生じた。その結果、研究分野の不均衡発展となる。
 技術の先行:科学・技術は個人レベルから地球規模に至るまで、四六時中人間の生活を支配し、社会構造と人間の精神構造まで変えつつある。精神文明としての科学よりも、技術への応用が先行し発展したために、物質文化の突出で精神文化が荒廃してきた。
技術は目先のことに目が向きがちであるから、技術面の発達が突出してマイナス効果が目立つようになった。科学・技術のプラス面ばかりでなくマイナス面がクローズアップされている。
 科学と技術の直結:現代では「科学=自然科学」、「科学=技術」と錯覚・誤解されている。 人文・社会科学の後進性が問題である。 
地球支配の思想:資源乱用、生態系破壊、環境破壊、核兵器開発競争で人類自滅の危機が叫ばれだした。人類の奢りに気づき反省の時代になった。

未来科学:20世紀末~21世紀の第3次科学革命
 「存在の科学」から「発展・進化の科学」へ進展しつつある。階層的自然観と進化的自然観を引き継いで、宇宙の進化(物質・時空間)と生命の発生・進化の機構に迫る。
 生命科学:生命の本質の探究、遺伝・発生と生命制御の科学が進む。
 認知科学:記憶、思考、心理の解明、脳の科学・「脳を知る」、「脳を作る」、「脳を守る」。
 宇宙時代:宇宙基地の建設、月・惑星探査と利用の時代に入った。宇宙空間の汚染に配慮すべきである。そのためには国家間の競争ではなく国際強調・協力が不可欠である。

 生命科学と認知科学は人間の心身のコントロールに利用されるから、科学活用の制御と倫理の形成が不可欠である。また、宇宙空間での生活は、人間の生理と精神を変えるだろう。 
 基礎科学も技術と直結-科学研究の規制、科学を制御するための科学方法論が必要である。
未来科学は人類生存の意義の理解を深め、価値観や生活態度に強く影響するであろう。

3.現代市民社会の問題点と、それが抱えている矛盾

 科学はリテラシー:読み・書き・計算+基礎科学
 教育、文化、経済、立法、行政、司法などすべての分野で科学的基礎知識と科学的判断力が必要な時代である。それゆえ、偏った視野の狭い教育の是正が望まれる。
科学の社会的責任:研究成果の行く末(活用)に目を配るだけでなく、研究成果を市民へ還元する意味で科学の解説普及活動も必要である。
 マスコミの役割が大である:科学記者に正しい科学知識と判断力が求められる。マスコミの姿勢に問題がある。テレビのワイドショウ的なものに引きずられている。
 科学・技術の啓蒙と科学政策について提言をできるように、系統的に取り組むべきである。報道は一過性のものが多く、後日の追跡・検証が不十分で報道の垂れ流しが多い。その是正のためには科学者との協力が必要である。
 便利さ・物質的豊かさを求め、精神的豊かさを等閑にしてきたつけが、哲学の貧困、文化の荒廃である。
 社会機構の複雑化・スピード化:肉体的疲労と精神的ストレスの蓄積で新たな精神的病気、原因不明の病気がでている。
 民主主義制度が正しく機能しなくなりつつある:政治家は選挙のため(歪んだ)世論に迎合し、集票を気にして、政策による指導力が弱体化してきた。情報化社会の歪みで、選挙では知名度(タレント)が優位となった。民主主義の長所が活かされず、欠点がでてきた。
 環境破壊、国際紛争・無差別テロの拡大:人間が安心して住める地域がどんどん減っている。

進む自動機械化・人工化-非自然化
 自動機械化:家事や街頭で機器の自動化が普及、工場では流れ作業・ロボット化が進む。
人工的世界の拡大:居住空間、地下街、巨大ビル、情報ネット社会、巨大金融市場、食料栽培・飼育、人工合成物質、遺伝子組み換え、宇宙基地は非自然化の典型である。

 その結果、人間が機械に従属させられ、情報に追われ振り回されて人間性の喪失の時代である。
社会活動のスピード化、グローバル化により、24時間稼働社会(地球の半分は常に昼間)で心身ともに疲労し精神的ストレスが増大する一方である。
 
 技術開発による新技術の発明は仕事の能率を大いに上げるが、逆に新たな多量の仕事を作りだし、社会全体の仕事量を増大させた-社会制度の欠陥。
 例:複写機、情報機器,コンピュータ、ロボット
 機械化が進み能率は増進したが、むしろ社会の全仕事量の増大で労働時間は延長され残業が増加した。そして日本では過労死がでている。技術は余暇を生むように活用すべきである。
 これらは資本主義社会での利潤追求の市場原理優先による結果である。

人類の抱えている諸問題
 環境破壊、人口過剰、資源・エネルギー枯渇、水・食料問題、地域・個人の貧富格差が進行している。
 人口問題がこの根底にあることを認識すべきである。人口数は地球の収容能力をすでに超えている。このままでは、この先さらに増加するから矛盾は強くなる。
 これ以外に、巨大兵器(核兵器、ミサイル、宇宙基地)開発競争、情報公害、地域紛争、無差別テロの拡大がある。
これらの諸問題に科学・技術が深く関わっていて、また発生原因にもなっている

4.科学・技術開発のみで問題の解決はできない
 これらの困難を解決するには科学・技術の活用は不可欠だが、しかし科学・技術のみでは限界がある。社会制度と人間の生活様式・価値観の変革が必要である。
 
科学・技術開発で地球環境は救えるか? 
 地球環境保全のために技術開発の必要性が唱えられている。国連を初め各国政府もその方針を打ち出している。環境破壊を防止するには科学・技術の力が必要であることは明らかである。また人類の抱えている諸問題の解決には諸分野の科学・技術の協力が有効かつ不可欠である。しかしその方法には限界があるし、逆にその技術も使用法によってはエネルギー消費を増やす結果になったり、新たな環境破壊の要因を生み出す可能性がある。

技術革新のもつ矛盾  
技術開発の自己増殖:便利さ・能率増大のための技術は他の分野に応用されて、次の
技術開発を刺激し拡張利用される。これは新技術による更なるエントロピー増大を引き起こす現象である。

 環境保全対策のための科学・技術の開発は主に
(1)機器・装置の小型化で資源節約、 (2)汚染物質の排出量を減少・吸収処理、(3)代替物質の開発である。
 これら科学・技術の開発で、逆に環境汚染を増大したものもある:コンピュータの小型化、原子力発電、フロンガス、複写機、赤外線センサーなどがその例として挙げられる。
 例:コンピュータの小型化は資源節約になるが、現実はパソコンの普及、新機種の開発競争で多量の資源浪費を生んだ。使い捨て、売れ残り製品の処分など。

 一つの優れた技術の開発は多方面に応用されて、逆に資源・エネルギーの大量消費をもたらすものがある。それは環境破壊の拡大再生産をもたらす。
 科学・技術は次々に自己増殖的な機能を具えている。また、技術開発はその利用法次第で次の技術的問題(良くも悪くも)を生むことを念頭に置かねばならない。
 
現代科学・技術の特徴と社会的影響 
 科学と技術の直結(基礎科学の早期応用)、巨大化、精密化、複雑化、スピード化:
だから環境破壊など社会的影響がでるのは早くかつ大規模である。被害に気づいたときは手遅れになる
から、事前評価を厳密にせねばならない。 
 事前評価には、技術の直接効果(一次効果)のみでなく二次・三次効果の予測が重要となる
 
 技術開発の地球環境・人体への影響を評価する場合、その直接的効果(一次効果)のみでは不十分である。間接的な第二次、三次効果まで予測しなければならない。二次、三次効果の予測はシステムが複雑であればあるほど必要であるが、困難である。
 科学・技術の進歩と精密化は分析能力を飛躍的に増大させ、危険の発見を容易にしたが限界がある。とくにデータの読み方・判断力が重要な役割をする。
 例:人工合成物質、遺伝子組み換え、医薬品など。
それには科学・技術のすべての分野の平衡的・総合的進歩が不可欠である。

5.自然科学・技術の可能性と限界
 科学の不完全性:
 人間も自然の一部である。記憶、思考、認識活動もみな高度に組織化された物質系の活動様式、自然現象の一形態である。それゆえ、「自然科学とは自然自体が人類を通して自らを解明する自己反映活動」である。したがって、人類の営みである科学活動は自然の自己発展の一部である。

 この科学観に立てば、自然を対象化して外から認識するというこれまでの立場から、自然と共に在って内から自然を認識する立場へ転換する。
 すると「科学は自己言及型の論理」となるからゲーデルの不完全性定理が適応され、自然科学の理論体系は不完全で永久に完結しない
 ゲーデルの定理によれば、無矛盾な述語論理の体系は真偽を決定できない命題(自然科学の場合は説明できない現象・問題)や自己矛盾的命題を含む。また、その論理体系の中で、自らの論理体系が無矛盾であることや自己完結であることを証明できない。
 完全な自然科学は永久に不可能であり、新理論もそれが無矛盾である限り、次にまた新たな決定不能な問題が発生して科学理論は永久に完成しない。それゆえ何処までも発展し続ける。自然自体は自己完結的存在であったとしても、自己完結的科学理論は不可能である。科学は無限に進歩発展するが、実在の自然の論理に無限に近づきうるのみ。

技術の限界:技術過信は危険 
 科学の応用である技術も必然的に不完全である。

 予測不可能なカオス現象:多くの不安定要因が非線形的に結合している複雑系には、カオス的現象(初期条件の微少差が長時間後に無限大の差異に拡大する)が起こりやすい。カオス的現象は技術の1次効果すら予測しかねる。
 それゆえ、科学・技術は不完全であり、予測できない落とし穴、欠陥があるから、絶対安全な技術は存在しない。技術への過信は戒めるべきである。

6.現代市民社会における科学のあり方

現代市民社会の矛盾を解決するための科学・技術のあり方:
 科学的自然観の形成により自然における人類の占める位置を認識し、それによって人生観・生き方の転換をはかるべきであろう。とくに「自然支配」の発想から「自然内での共生・自立」の思想へ転換を!
 以上の考察から、現代市民社会は長期的見通しをもって将来社会を設計し直すことが求められているだろう。そのためには、自然科学と社会科学を統合した「総合的(横断的)科学」の構築が必要であろう。
 その新たな総合的科学の上に立った哲学・倫理を築くこと、さらに科学・技術の発展と社会的機能を制御する科学「?科学」、および物質文化を制御できる「文化」の形成も必要である。
 科学は文化であるから、科学を精神文明にもっと強力に活かすべきである。
 精神文明としての科学の復権を!

社会制度、生き方、価値観の転換が必要 
 平和で自由・平等、かつ精神的・物質的に豊かな市民社会を築くために科学・技術は活用されねばならない。
 市民と科学者は協力して、政府・地方自治体、企業が良き市民社会を作るよう監視、提言することが望まれる。そのためには市民は科学リテラシーと科学的判断力を持たねばならぬ。

「人間が機械に従属する社会」から「人間が機械を制御する社会」へ。
 情報科学は多量情報の通信や蓄積の技術と情報処理技術の開発にのみ力が注がれ、情報内容の改善にはほとんど向けられていない。
 情報科学・技術の活用の歪み(低俗テレビの氾濫など)・悪用を是正して、知的情報の製作に力を入れねばならない。

 民主社会形成のための活用法を開発するような自然・人文・社会科学を統一した綜合科学を築くべきである。

 生活スタイルの変更:
 便利さ、スピード化、浪費を抑制-価値観の転換を。人類の欲望は限りがない。便利な社会生活に慣れると、それが当たり前のように思い、止まるところを知らない。
「持続可能な開発」とは生態系や人間の生理的変化がついていけるような緩いテンポの開発である。

 新たな社会制度の理論の構築を:
 科学・技術優位、情報化、スピード化、グローバル化、環境破壊、食料・資源不足、人口過剰などの現代の状況を見据えて、政治・経済機構を改変するための新理論が望まれる。マルクスの時代は、地球は無限で、開発・発展は善であるとの前提の上に立てられた理論であった。
 資本主義に替わる社会制度のビジョンは?



補足文献
1.拙稿「進む人口世界と人類の未来」「日本科学者会議17総学」(2008年)
2.拙稿「新しい科学のための哲学を」『唯物論と現代』33号(2004年)
3.拙稿「科学・技術で地球環境は救えるか」『日本の科学者』Vol.44, No.6 (2009年)
4.拙稿「歴史家と科学史家の協同で歴史教科書を作ろう」『日本の科学者』Vol.44,No.2 (2009年)

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