科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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科学・技術の社会的意義を歴史教育に (II)
科学・技術の社会的意義を歴史教育に (II)

  歴史は人類の営みの発展推移とその意義を総合的に記述すべきものである。人間の営みは多面的であり、それらは相互に関連しあっている。そのなかで、科学・技術は重要な役割を果たしてきた。
 生産力に見合う生産関係が人間社会の下部構造として重要視するのが唯物史観であるが、その生産力を維持発展させてきたのが科学・技術である。また政治、思想文化など上部構造に科学は大きく寄与している。上部構造と下部構造ともに社会の重要な構成要素であり、それらは相互規定的に依存しつつ社会が発展してきたことは否定できないであろう。そのことを思えば、科学・技術を無視してまともな人類の歴史は語れないはずである。それにもかかわらず、これまでに歴史教科書には科学・技術の役割はほとんど無視されてきた。この歴史観の歪みを正す歴史教科書をつくるべきことを以前主張した(2006.9)。

 その際は、科学・技術の社会的役割については、ニュートン力学に始まる西欧近代科学を中心に採りあげたので、記述が不十分であった。以下にその補足をする。

科学の社会的機能-科学は文化の一部である
1.精神文明への寄与:自然観、哲学、人生観の形成に不可欠。
2.物質文明への寄与:技術を通して生産力となり物質的な豊かさをもたらす、また自然の脅威から身を守る。
 前者1.は上部構造へ、後者2.は下部構造への寄与である。


 科学・技術にはその時代と地域の自然観と風土が反映している。それゆえ、東洋と西洋では科学の論理と方法がかなり異なり、近代科学は西欧で誕生した。したがって、科学・技術の社会的機能は西欧の方が大であるから、以下の考察は主に西欧社会になる。

(1)古代 
 科学・技術は人間の社会的生産活動のなかから、知的欲求に根ざして生まれた。その発展過程で、科学は技術的知識を普遍化し、抽象的理論として体系化され、最初は自然哲学として誕生した。
 古代の科学は宗教行事、生産技術、医薬術、暦術などと渾然一体となっていたが、次第に呪術的要素を排除しつつ、合理的知識の体系を整えていった。
 科学と技術の分離は古代ギリシア時代からであろう。エジプト、メソポタミアで蓄積された技術的知識が昇華されて科学として分離独立した。(東洋ではこの分離は遅れた。)
自然観:観念論と唯物論的自然観があったが、宗教的自然観が長期にわたり優位にあった。科学も宗教的教義と自然観の支配下にあって、コントロールされていた(中国はやや異なる)。

(2)中世
 技術的進歩はあったが、科学の進歩は停滞した。古代の自然哲学(西欧ではアリストテレス自然学)から脱皮し、近代科学誕生の知的準備期であった。
 科学の中心はイスラム圏に移り、理論偏重のギリシア科学と実学的東洋科学を融合させたアラビア科学がその役割を果たした。技術の進歩はアラビア以外に、中国、ローマ帝国、西欧で顕著であった。
 スコラ哲学(自然学):トマス・アクィナスがアリストテレス体系とキリスト教義を融合し、形而上学的観念論哲学や論理学が栄えた。
 
 二重真理説:神学的真理とは別に自然学的真理は存在しうるという思想が、アラビア科学の中に芽ばえた(アベロイス主義)。キリスト教会からは弾圧されたが、14~17世紀の半ばにかけて支配的になった。

アリストテレス体系(哲学・自然学)の崩壊:目的論的自然観から機械論的自然観へ
 コペルニクス地動説(16世紀)が契機となり、階層的有限宇宙の崩壊から等質な無限宇宙へと、宇宙像が転換した -空間革命。
 天上界と地上界の壁は取り除かれ、一つの同質な宇宙に統一された-近代科学への道。

(3) 近代科学(第一科学革命):17世紀終わり頃ニュートン力学を皮切りに実証科学として西欧で成立した。
自然観の転換:目的論的自然観から機械論的、原子論的、数学的自然観へ。これが近代科学の 基礎にある自然観である。やがて力学的自然観が定着した。
 科学は神を必要としない論理を築いた:自然の運動原理を自然自体の中に求め、自然の仕組みを 探究するのが科学の目的となる。
 宗教からの独立:逆に科学理論は宗教教義へ影響を及ぼすようになった。宗教の社会的権威の低 下は宗教革命である(16世紀キリスト教の宗教改革より影響は大きい)。
 信仰の時代から理性の時代へ:思想革命、新しい哲学・倫理の誕生-啓蒙運動の興隆。

科学の社会的機能:科学は一つの制度として社会に定着し、科学者は職業の一つとなる。
科学の目的:自然法則の探究の他に、生活を豊かにし、国力を興隆-F.ベーコン。

第一次産業革命:18世紀~19世紀にかけて工場制機械工業の導入は、産業の変革と社会構造の変革をもたらし、市民革命とともに近代の幕開けとなった。
 この産業革命の特徴:工場制機械化と動力機関の発達、それによるエネルギーの大量利用。物質文明の急進-地球支配-環境破壊の始まり。
 
(4)現代科学(20世紀の第二科学革命)
物理革命:相対論、量子論の誕生は科学観と自然認識の意味を転換させた-科学の適用限界を認 識した。
自然観の転換:進化的自然観、階層的自然観が現代科学の基礎となった-思想革命。
自然科学の全面的革命:化学(構造の化学)、生物学(物理生物学、分子生物学)、
 宇宙物理の質的転換と飛躍的発展へ。
情報科学、コンピュータの誕生:科学・技術の飛躍、情報化社会の誕生。

第二次産業革命:このベースに量子力学とコンピュータの進歩がある。
 この産業革命の特徴:エントロピーがキーワード(第1次産業革命ではエネルギー)、 科学と技術の直結。
 量子力学:ミクロ科学・技術、ハイテク産業、ナノ技術、
 コンピュータ:ロボット、巨大技術、ロケット、通信・輸送手段の発達。
 
現代科学と第2次産業革命により、情報化社会、グローバル化、宇宙時代の開幕。
物質文化の急速の進展で生活様式と人生観が大きく変化した。

 自然支配の思想-地球環境の破壊
 原水爆開発競争         人類絶滅の危機を招いた

科学・技術は政治・経済を動かす力を得、国家の権威、国力のシンボルとなった。
物質文化の飛躍的発展、精神文明の遅れは、社会の歪み、人心の荒廃をもたらした。
このような状況をもたらした人類の活動に対する反省の時期に入った。

(5)21世紀(第三科学革命)
「存在の科学」から「発展進化の科学」へ:これまでの物質の存在様式とその運動法則の追究から、物質の能動性(自己組織化、進化)の原理法則の追究へ進展。

自然観:階層的自然観、進化的自然観、数学的自然観を引き継いで、宇宙の進化(物質・ 時空間) と生命の発生・進化の機構に迫る。
進化の科学:宇宙進化、物質進化、生命進化-複雑系の科学。
生命科学:生命の本質の探究、遺伝・発生と生命制御の科学が進む。
認知科学:記憶、思考、心理の解明、脳の科学・「脳を知る」、「脳を作る」、「脳を守る」。
宇宙時代:宇宙基地の建設、月・惑星探査と利用の時代に入った。宇宙空間の汚染に配慮 すべき である。そのためには国家間の競争ではなく国際強調・協力が不可欠である。

「人間とは何か」が科学的に解明され、人生観、価値観の転換が起こるだろう。また社会構造、社会制度の変革も必然的に求められるだろう。

付記: 現在民主党政権は国家予算の無駄を省くために、来年度予算の見直し「仕分け」を行っている。そこで科学研究の予算が大幅に削減・圧縮されようとしている。その処置にたまりかねた大学・研究所の理系研究者は声を大にして反論している。科学者がこのようにこぞって立ち上がるのは珍しいことである(国立大学の独立法人化の時にこれをなすべきであった)。
 国・公立大学が独立法人化されてから、自公政権は毎年大学の経常研究費を1%削減し続けてきた。そのために、大学の教育・研究は危機に瀕している。その代わり、重点的プロジェクトに大量の予算をつけた。その課題の選定方法は適正な科学政策に基づくものとは思えなかった。そのため研究予算の不均等配分で、基礎的研究が阻害され圧迫されている。
 科学は特別の分野が突出するだけでは、いつかは行き詰まり衰退する。このような研究予算の配分法こそ改めねばならない。実用に直結しないような基礎研究が疎かにされないように、経常研究費や科学研究費を回復すべきである。 
 一旦遅れたり破壊されたりした文化、特に科学は取り戻すのに大変である。上記の科学・技術の社会的機能の意義はその判断資料となるであろう。


 参考文献
1.『東の科学・西の科学』東方出版(1988)、
2.『科学と自然観』東方出版(1995)、
3.「歴史家と科学史家が協力して歴史教科書をつくろう」『日本の科学者』 Vol.44,No.2(200 9)。
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