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科学・技術と自然環境について、教育を考える。
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複雑系科学における不確実性と確率的予測について
複雑系科学における不確実性と確率的予測について                                

複雑系科学において、発展・進化の過程は一義的でなく不確実であって、結果の予測は困難である。それゆえ、確率的予測とならざるをえないといわれている(I.プリゴジン『確実性の終焉』)。その不確実性の原因と確率法則の意味について考察する。不確実性と確率法則を強調しすぎると、不可知論に陥る危険性があるので、そのことを念頭に置いてこの問題を議論する必要があるだろう

(I)複雑系の発展・進化過程の不確実性と予測不可能性の要因

1)複雑系は構成要素が多く、多種相互作用が複雑にからんでいて、非線形相互作用が支配的である。
2)非平衡散逸開放系であり、不安定な臨界状態の近く-カオスの縁-にある。それゆえ、系の発展過程は境界条件(環境)の影響を受けやすい。
3)揺らぎがカオス的に増幅され易い不安定状態にある。その結果、非線形運動法則に従い、解が一義的でない。
 4)新たな質や機能が創発されるが、創発の種類と形式は内部状態ばかりでなく、外部(環境)からの作用にも依存する。それゆえ、発展の予測が困難である、
 5)初期条件(1次情報)のみでは発展過程は決まらず、創発形式は環境からの作用(2次情報、3次情報)にも依存する。これらの原因が絡んで一層不確実性が増し、予測不可能になるといえる。

(II)相互作用の非線形性とカオス

i)決定論的方程式は積分可能である限り、初期条件を与えれば解は一義的に決まる。それゆえ、未来の状態を正確に予測できる。しかし、相互作用が複雑になると、非線形方程式などのように積分不可能になる。そのような場合は、解が一義的でないために予測が出来ない。
 よく知られている例はポアンカレーの3体問題である。決定論的ニュートン力学でも、3体以上の系では2つ以上の天体が互いに同時に重力を及ぼし合うので相互作用が複雑になり、非線形方程式となって積分不可能である。この3体系の例では、特別な配置状態(3体が正三角形など)を除いて、積分できず一義的解は存在しないので未来の状態の予測は出来ない。したがって、決定論的理論でもカオス現象となり、遠い先の予測が不可能な場合がある。自然界では、一般的にこのような場合の方が多い。
 非線形方程式では、パラメータや初期条件を変えることで、解がドラスティックに変化したり、分岐解が生ずるのでどの分岐枝を取って進行するのか一般的に予測は困難である。
 
ii)複雑系は多体問題である上に、非平衡開放形であるから、絶えず境界(環境)からの作用の影響を受けつつ変化発展する。だから初期条件のみでは将来の状態は決まらない。とくに、カオスの縁にある不安定な非平衡状態は初期条件や境界条件に敏感に反応するので、予測は一層困難である。
 開放系は内部状態と外部環境との相互作用(物質、エネルギー、エントロピーの出入)が絶えずあるので、系の発展方向は内部状態のみでは決まらない。初期条件を1次情報とすると、発展過程で創発される質や機能は2次的、3次的情報となり、それによって変化発展の方向が左右される。たとえば、生物個体の発生過程では、成長はDNA(1次情報)のみでは決まらない。DNAの1次情報のみに支配されて発生が進むならば、細胞分裂では同じ細胞しかできないので組織分化は起こらない。細胞分裂による成長過程で、細胞配置(内部や外部など)や重力作用に差が生じ、それによって組織分化が起こるが、それらは2次的、3次的情報である。
 初期状態の1次情報が十分に得られた場合でも、2次、3次情報による創発の状況が予測できないなら、複雑系の変化発展は予測できない。もし、1次および2次以上の情報を正確・精密に知りうるならば、決定論的法則に従う現象は予測可能なものもあるはずである。

(III) 確率的選択とその解釈
カオスの縁にある複雑系は、長期間後の結果の予測が困難で、かつ解が一義的でないためにその発展過程がどの分岐枝を取って進行するか不明である。それゆえ、系の進行はいかなる分岐枝を選ぶかの予測は確率的にならざるをえない。しかし、その選択法則が予測できないのは、必ずしも原理的に不可能というものばかりでないはずである。なかには
系の状態が複雑であるために運動法則(運動方程式)が未知であるからであって、基本的には決まった法則が存在するものもあるだろう。
発展方程式が分かっているが、分岐枝の予測ができない例としてロジスティク写像をとろう。生物の個体数の世代変化に関する漸化式(ロジスティク写像)は
             Xn+1 =αXn (1-Xn)

(ただし、 n = 0, 1, 2,・・.を世代番号とし、αは0<α<4のパラメータ)である。これも非線形方程式である。
パラメータαの値により、Xn(n→∞)の収斂する先の値Xが変わる。αが3以下では一定値に収束するが、3≤α≤3.56995の範囲では収斂値が2つに分岐してXはその間で振動し定まらない。さらに、3.56995<αではXnは4つの値の間を変動する。α=4附近では連続的な領域を激しく変動して全く定まらない。
αの値が大きい場合のこの現象は予測不可能な例とされる。このロジスティク写像は決定論的方程式である。αが3以下の場合はXの値の予測は完全に可能である。αが3を越えると、世代nが一つ変わるごとにXnは2つあるいは4つの値を不連続的に変動して収斂しないから、予測できないとされる。αが4附近では全く予測不可能という。しかし、写像式が確定しているゆえ、決まったn番目の世代のXnは計算できて、決まった値を得るのだから予測はできる。ただし、一定値に収斂しないので、nを決めないn→∞での値は予測不可能であり、どの値を取るかは確率的にしか予測できないというのである。それゆえ、このような現象は、全く予測不可能というわけではないことに留意すべきであろう。

ポアンカレーの3体問題のように、決定論的運動法則に従うカオス現象は多い。カオス的現象は、初期条件が微少だけずれても長時間の後には無限に異なる結果を生ずる。その場合にも、初期条件を厳密に与えれば、その方程式を用いて(積分はできなくとも)、その後の軌道を数値計算によって予測できる。したがって、決定論的法則の下でのカオス現象の予測不可能性は、初期条件や境界条件の不確実さによるといえる。

 予測不可能性を生むもう一つの要因は「揺らぎ」である。閉鎖系でも開放系でも不安定な多体系には揺らぎがある。とくに、非平衡な複雑系がカオスの縁にあるとき、その揺らぎが大きく増幅されて系は不安定になり、系の変化の予測は不可能となる。このような場合は、その系の決定論的運動法則(運動方程式)を見出すことが困難であるから、予測は不可能なのである。
 その典型的な例は気象予報である。気象現象は大気の気圧、温度、湿度などが絡み、かつ海と陸地が外的境界条件となる複雑系である。大気が不安定な状態にあるとき、カオス的に揺らぎが拡大される。これらの要因を取り入れた予報理論はまだ不完全であり、大気と外的条件に関する情報が十分でないために、天気予報の当たる確率はあまり高くない。しかし、近年、人工衛星など観測法の改良進歩と観測量の増加で、データ量の増大と精度の改善で、正確な情報量は飛躍的に増大した。また理論の進歩と大型コンピュータのお陰で、気象予報の当たる確率はかなり高くなった。気象現象はカオス的要素がかなりあるので、まだ長期予報は不正確であるが、短期、局所的予報の当たる確率は昔と比較すると格段の差がある。この先、データと理論の改良でさらに改善進歩し、長期予報の精度も増して行くであろう。

(IV)確率的予測は原理的・不可避的なものとは限らない
 いずれの場合も、複雑系の構成要素数が多く、かつ内部相互作用が複雑である場合は、非平衡・不安定のゆえに揺らぎが増幅されるために、厳密な方程式が発見できないことが不確実性と予測不可能性の主たる原因であろう。また、複雑系は初期条件や境界条件(2次、3次情報も含めて)に強く依存しやすいが、その情報を正確に捉えられないこともその原因である。
すべての現象において、部分系における構成要素間の短時間の素過程は、それぞれある定まった自然法則に従って運動・変化しているはずである。それゆえ、将来、認識が進み、系の運動を支配する法則と初期条件・境界条件などの情報が正確に掴めるようになれば、それ相当の確実性を備えた法則が発見され、予測可能な複雑系が見出される可能性はあるように思える。その意味で、複雑系の予測不可能性と確率法則は原理的なものではないだろう。
 ただし、初期条件や境界条件については、ハイゼンベルグの不確定性関係との関係を付言しておく必要があろう。この不確定性関係により、位置と運動量(速度)との積はプランク作用量子hを下限とする不確定性をもっている(Δx・Δp>h/2π)。それゆえ、力学的情報としての初期条件を厳密に決めることはできない。もし、カオスの縁にある複雑系の発展に、プランク定数hの程度の不確定性が問題になるほど微妙であるならば、初期条件や境界条件の不定性から来る不確実性は除去できない本質的なものとなる。

(V)まとめ 
以上の考察から分かるように、マクロな複雑系の運動発展に関する予測不可能性や確率的法則性は量子力学の確率法則とは本質的に異なる。量子力学の理論体系は、物質系の状態を表す波動関数の運動を与えるシュレーディンガー方程式(あるいはハイゼンベルグの行列力学)と系の観測に関するボルンの確率解釈(波動関数の絶対値の2乗が状態の観測確率)とからなっている。シュレーディンガー方程式は波動関数の運動に関しては決定論的方程式である。それゆえ、この二つは全く質的に異なる独立な仮定であるから、量子力学は木に竹を接いだような論理体系になっている。ミクロ実体の2重性(粒子性と波動性)から生ずる不確定性関係の示すように、量子力学の不確定性とボルンの確率解釈とは本質的・原理的なものである。
 それに対して、複雑系科学における不確実性と予測の確率的法則は量子力学のそれとは質的に異なることに留意すべきである。将来、科学の進歩によって確実性を回復するものがないとは言えない。
 また、不確実・予測不可能な複雑系の現象でも、これまでの科学における法則とは質の異なる法則性が存在するはずである。質点力学の法則と統計力学の法則の違いのように。したがって、不確実性の内容を吟味して、その意味と条件を明らかにする必要もあろう。とくに、複雑系の不確実性からくる予測の確率法則は、原理的に不可避的なものなのか、それとも科学論理と観測技術が未発達のためなのか、あるいは両者を含むものなのかを明らかにすることは、複雑系科学において重要な課題であろう。
対称性の破れと自然界の階層性
対称性の破れと自然界の階層性    
 (『物理教育』Vol.57.No.2(2009.6)に掲載した解説論文)    

要旨
 物質の階層性を相互作用(力)の性質を基に考察した。自然界の多様性と階層性のもとは相互作用の対称性の破れとその階層性にある。そのことを物質の基礎である素粒子の世界を中心に説明した。そして、相互作用の特性、物理学における対称性の意義、およびその対称性の破れについて解説した。


1.はじめに 
 今年度のノーベル物理学賞は、南部陽一郎「自発的対称性の破れ」、小林誠・益川敏英「CP対称性の破れ」に対して与えられた。素粒子論は湯川秀樹、朝永振一郎以来、日本物理学の輝かしい伝統的学問分野である。この度の3人の同時受賞は、この伝統を引き継ぎ発展させた素晴らしい業績の成果である。
 両理論は素粒子の世界における対称性の破れと関連している。そこで、対称性の破れを中心にこれら理論の内容と物理学における意義を解説する。
 そもそも宇宙創生以来の自然界の階層構造と多様性を生みだした基礎的要因は、物質間に働く相互作用の多様性にある。その多様な相互作用は、自然界の階層構造の基礎にある素粒子世界における対称性の破れによって生じたのである。したがって、自然の階層性とこの理論との関連を併せて考察することにする。
 高校や大学教養のレベルの授業では素粒子論のような抽象的理論は直接教えないが、物理学を教える者がこのような知識を科学的自然観として背景に持っているならば、授業の中味に幅と深さが自ずと備わると思う。ニュートン力学や電磁気学を教えるにしても、いろいろな物理概念や原理・法則を単に教科書的知識に止まらず、現代科学の観点から問題意識を持って教えることができるはずである。 
 それゆえ、本稿は受賞論文の内容解説に限定せず、自然界の階層構造と多様性を相互作用の対称性の破れと関連づけて、広い問題意識をもって考察することにした。それによって現代科学の自然観を形成することに役立てば幸いである。

2.自然界における物質の階層性 
 マクロな物質を分解していくと分子、原子に到達する。19世紀末までは原子は不変・不可分な実体とされていた。だが放射性元素の発見から、原子は可変、分解可能な構造を有することに気づいた。20世紀初頭、原子は原子核とそれを取り囲む電子とからなること、さらに原子核は陽子と中性子からなることが解明された。こうして、皮肉なことに、原子の存在が実証されると同時に古典的原子概念は崩壊した。
 20世紀初期に知られていた電子、ニュートリノ、核子(陽子・中性子)、中間子などはこれ以上分解できない究極的実体と見なされ、素粒子(elementary particle)と名づけられた。その後多数の素粒子が発見されて、それらは生成・崩壊し、かつ相互転化することがわかり、核子や中間子などの素粒子もクォークからなることが明らかになった。またしても、素粒子という名は実態にそぐわなくなった。このように物質概念に限らず、科学の進歩と共に物理学の多くの概念は変わってきた。
 他方、マクロ物質から上に向かっては、惑星-恒星系-銀河-・・・という階層があることがわかっている。このように物質分布は連続的でなく、切れ目のある階層をなしていて、自然界は上層にも下層にも何階もの階層構造をしている。このことは自然の豊かさと奥深さを示すものである。

物質分布の階層性:
 宇宙-超銀河-銀河団-銀河-恒星系-地球(惑星) -マクロ物質-分子・原子-素粒子-  クォーク-この下(サブクォーク)?  

 この階層系列が有限か無限かは今のところわからない。下にはサブクォーク、上には多宇宙の可能性もある。

各階層には固有の構造と法則
 物質の階層は、単なる空間的大きさで物質分布を区切っただけのものではない。各階層には、それぞれ性質とスケールの異なる物質で構成され、特有の構造がある。したがって、階層ごとに質的にも異なる特性がある。
 それぞれの階層を構成する物質と階層構造はみな異なり、構成要素間の力も異なるから法則性も各階層ごとにさまざまである。その差違をもたらす根本的なものは物質間の相互作用(力)の違いである。素粒子の階層には基礎的な相互作用があり、物質に関する基本的法則がある。さらに、階層ごとに固有の時間スケールがある(階層時間と呼ぶことにする)。マクロ階層の標準的階層時間のスケールは数秒ないし分であるのに対して、素粒子の世界では10-23~21秒(核時間)、銀河の階層時間は数千万年から億年である。
 それにしても、ビッグバン膨張宇宙論では最下層のクォーク層と最上部の宇宙層とが密接に関連していてドッキングしているということがわかった。科学の進歩によって、自然認識の夢はどこまでも膨らみ、その先に思いもよらぬ世界が開かれる。

3.相互作用(力)の性質と階層性  
 物質の本性は運動と相互作用(力)である。相互作用がなければ、物質の運動もなく、物質の存在も属性も認識できない。質量や電気など物質の属性はむしろ相互作用によって決まるといえるのである。したがって、自然界を規定するすべての根源は物質間の相互作用にあるといえる。
 相互作用にはいろいろな種類がありそれぞれ働き方が異なるが、この相互作用の多様性の由来はそれら相互作用の性質の違いと階層性にある。そこでまず、相互作用の働き方と階層性について述べる。
 相互作用(力)の働き方の3要素 (参考文献1)
 力学的相互作用(力)の働きを区別する重要な性質として次の3要素がある:
(1)力が作用する物質の属性:電気力は電荷を帯びた物質間にのみ働き、電気的中性の物質には働かない。また、原子核を結合する核力は核子(陽子、中性子)の間に働き、電子間や原子間には働かない。それぞれの力が作用するのはそれに対応した特定の属性をもった物質のみである。
(2)力の強さ:非常に強い力から弱い力まである。核力は非常に強く、電磁気力は中程度、重力は非常に弱い。化学結合力である原子間力は電磁気力より弱いが中程度の強さである。
(3)力の到達距離:その力が及ぶ範囲の長短である。電気力や重力の作用は無限遠まで及ぶが、原子間力は原子の大きさの数倍程度、核力は原子核の大きさ程度で非常に短い。
 このように、力の働き方には3つの特性がある。もし、力の到達距離がすべて同じで、物質の種類に区別なく働けば、物質の階層性はなく、自然界は何の変哲もない一様な世界となろう。また、強い力の到達距離が無限大ならば、宇宙は強い力で一色に塗りつぶされ、自然界の多様性は生じない。 

相互作用の階層性  (参考文献2)
 相互作用を分類する上で重要なもう一つのものは、相互作用にも階層構造があるということである。物質の階層性を生み出す根源はむしろ相互作用の階層性にあるといえる。
すべての物質の一番基礎となる粒子間に作用する力を基礎的相互作用といい、現在のところ4種類ある:
 強さの順に 強い力、電磁気力、弱い力、重力
これを1次相互作用と呼ぶことにする。
この中で、重力は他の3つとは質的に異なるところがある。基礎的相互作用を1次相互作用として、それから次々に2次、3次相互作用が派生する。
 2次相互作用:原子間力(核力、化学結合力など)
 3次相互作用:分子間力(ファン・デル・ワールス力)
 4次相互作用:弾性力、圧力など
 1次力から4次力まで階層的構造をしていて、それぞれ力の作用に関する3要素を備えている。力の作用の3要素と力の階層性により、多種多様な作用が生じ、物質の階層性と自然界の多様性を造り出しているのである。
 
4.素粒子の世界
 原子・素粒子などミクロ物質は、マクロ物質とは異なる量子論的特性を有している。列挙すると
・二重性:粒子性と波動性を有する実体
・不確定性関係:位置と運動量は同時に確定できない
・粒子の状態を表す波動関数:運動は必然的法則、観  測は確率法則(波動関数の絶対値の2乗が観測確率)
・質量とエネルギーの同等性:相対性理論
・それぞれの粒子には反粒子が存在:物質と反物質
・真空は空でない:粒子と反粒子が無限に凝縮した状  態。真空から粒子-反粒子が対発生(逆に対消滅)。
 素粒子は多数種類あり、大きく3種類に分類される:
 強粒子(ハドロン)族:重粒子と中間子
 軽粒子(レプトン)族:電子・ニュートリノなど6種
 ゲージ粒子(ゲージ場)族:グルーオン、光子、弱ボ ゾン、重力子など基礎的相互作用を作る場

強粒子のうち重粒子はスピン(自転角運動量)が半整数、中間子はスピンが整数の粒子である。強粒子はさらに下の階層の粒子クォークからなる複合粒子である。
 現在のところ、クォークと軽粒子がもっとも基本的実体とされている(サブクォークの存在も予想されているが)。 
6種のクォークと軽粒子は次の通り:
 第1世代 u,d;e,νe
  第2世代 c,s;μ,νμ
  第3世代 t,b;τ,ντ
 (注)スピンはすべて1/2(h/2π)、電荷はu,c,tが2/3(e);d、s、bが-1/3(e)

反粒子 
 素粒子の種類について重要なものに反粒子がある。反粒子とは、物質を構成している電子や陽子・中性子などの粒子に対して、その裏の世界をつくる粒子、すなわち陽電子(反電子)や反陽子・反中性子などのことである。すべての素粒子(軽粒子、クォーク)にはそれぞれの反粒子が存在する。反粒子の存在は相対性理論と量子力学を統一した理論からディラックによって予言された。反粒子は質量やスピンなどはその粒子と同じであるが、電荷などの量子数は逆である。その結果、真空は空虚な空間ではなく、粒子と反粒子対が無限に詰まった状態だということになった。だから、十分なエネルギーを与えると真空から電子・陽電子が対発生する。同様に、十分なエネルギーさえあればすべての粒子-反粒子の対が発生する。逆に,粒子と反粒子が衝突すると消滅して真空とエネルギー(γ線など)にもどる。この対発生の現象が宇宙誕生時における物質起源の元なのである。





     γ(π)          ○ e(q)

                 ● e(q)

   図1:γ線(π中間子)による電子e-陽電子e 
     (クォークq-反クォークq)対発生

5.物理学における対称性とは

 素粒子論では理論の対称性とその破れが重要な意味を持つが、その前に対称性の意義について考察しておこう。
 そもそも、対称性とは左右対称とか、回転対称といった幾何学的概念であったが、それがだんだん拡張されてきた。たとえば、ユークリッド空間のように一様な空間は平行移動の対称性を有し、等方的空間には回転対称性があるという(一様な空間は平坦で空間密度が一様、等方的空間は球対称のみで動径方向の空間密度は一様とは限らない)。さらに、力学理論の方程式が座標系の平行移動や回転に対して不変であるとき、その理論は平行移動対称性や回転対称性を有するという。この場合、これら平行移動や回転の座標変換は、通常慣性系間のガリレイ変換で表されるので、その理論はガリレイ変換に対して対称であるというわけである。(2つの座標軸は平行でなくとも、慣性系間の変換、すなわち座標軸回転と平行移動を合わせた座標変換もガリレイ変換である。また座標軸回転のみもそれに含まれる。)
 対称性概念は空間についてばかりでなく、さらに物の入れ換えにも拡張された。白と黒が交互に ○●○● のように並んでいるとき、このうちの2つの白丸を入れ換えても、元にもどるからこの入れ換えに対して対称的である。また、白と黒を入れ換えた後に左右を反転させれば元にもどるから、この変換に対しても対称である。
 素粒子の対称性には、以下に示すように、空間・時間に関する対称性と素粒子の入れ換えに対する対称性がある。ある種の変換に対して理論が不変であるとき、その理論はその変換に対して対称である(対称性を有する)という。
 ここで物理学における対称性の意義に触れておこう。物理理論がある変換に対して対称であるとき、それに対応する保存則が存在する(厳密にはある条件がつくが省略)。これはネーターの定理としてよく知られている。
 たとえば、ニュートン力学は平行移動対称性を有するので運動量保存則が導かれる。また、回転対称性は角運動量保存則に対応している。これ以外にも多くある。
 もう一つの意義は、座標系間の変換に関するものである。ニュートン力学は、運動現象を数学的に解読して、微分方程式という抽象的数式で表現した。その運動法則によってすべての物質運動を統一的に説明できる。この事実だけでも驚くべきことで、素晴らしい発見である。それだけではなく、その運動方程式がガリレイ変換のもとで不変(ガリレイ変換対称性)であるということは、その理論がすべての慣性系で成り立つ(多くの観測者に対して成り立つ)のであるから、それだけの普遍性と客観性を有することを意味する。そして、運動方程式がこのような変換に対して不変であるという性質を見出したことは、その運動方程式のさらに背後に隠れていた自然の仕組みを一歩踏み込んで深く洞察したことになる。一般相対性理論の一般座標変換不変性はその典型である。この意義を理解すべきである。
 理論(方程式)の変換に対する不変性についての以上のことは、座標変換ばかりでなく、スケール変換やこの後で述べる素粒子の入れ換えに対する不変性など、さらに一般的にいえることである。
 このように、理論の対称性の発見は、その理論に内包された深い物理的意味を見出し、自然の仕組みをさらに深く認識することになるのである。したがって、理論の対称性は物理学の重要な概念なのである。(参考文献3)

素粒子の対称性
 素粒子の世界の対称性には,外部対称性と内部対称性というものがある.
 素粒子の外部対称性とは,粒子の外部の時間・空間に関する対称性である。3次元空間には右手系と左手系の違いがあるが、この二つの座標系は左右が反対で鏡に映した世界に対応する。右手系から左手系への変換(およびその逆変換)は空間反転のパリティ変換といいPで表す。また、時間の向きを逆転する変換は時間反転パリティ変換といいTで表す。通常の力学理論はPおよびT変換で不変である。
 もう一つ重要な変換は荷電共役変換(粒子-反粒子変換)というものでCで表す。C変換は粒子と反粒子を入れ換える変換,すなわち物質(この宇宙)から反物質(反宇宙)の世界に移ることを意味する。C変換とP変換を合わせたCP変換もある。ちなみに,CP変換は時間反転のT変換と同等であることが証明されている。これ以外にも変換はあるが、ここでは必要ないので省略する。
 P,T,Cなどの変換で素粒子の相互作用の形式(粒子の波動関数の積で表した式)や法則が不変なとき,その理論にはそれぞれP,T,C対称性があるという。
 素粒子の内部対称性というのは素粒子の内的属性に関する対称性のことで、たとえば、陽子と中性子は、電荷の違いだけで、質量やスピンばかりでなく核力の性質も同じである。
 それゆえ、核力の理論的形式は陽子と中性子を入れ換えても変わらない。これを核力の荷電スピン対称性という。さらに核力を媒介するπ中間子にはπ+、π0、π-の3つがあるが、これらは核力に関して電荷の違い以外の性質は同じであり、一括りにして荷電スピンの3重組を作るという。核力はこの3種のπ中間子についても荷電スピン対称性を有する。
 このような素粒子の対称性を拡張して、一般的には性質の似た粒子を一括りにしてグループをつくり、その同じ組のなかの粒子を同一視して、その組の中でそれら粒子を入れ換えても理論は変わらないとき,そのグループに関して内部対称性があるという。
 クォークには3重組の色対称性というものがある。6種のクォークには、それぞれに赤、緑、青と呼ばれる3種類の内部自由度がある(クォークが目に見える色を持っているのではなく、3種を区別する符号である。3つあればグウ、チョキ、パーでもよい。3色を用いた理由は次の通り。核子、中間子などの素粒子は色電荷を持たないので白色とみなしうる。核子は3色のクォークの組み合わせ結合、および中間子は反対色のクォーク・反クォークの結合状態で無色となりうる。そこで光の3原色になぞらえて、発案者のゲルマンは3原色にした)。それぞれのクォークは「色」以外の性質は同じで、3重組の内の入れ換えに対する色対称性を有しているのである。

6.対称性の破れ
理論の対称性は物理的に重要な意味を有していることを先に述べた。自然界の仕組みの基本的なものには,これら多くの対称性があるが、現実の自然界ではその対称性が破れているものが多いのである。つまり、それら対称性は近似的対称性である。この対称性の破れが、自然界の階層性や多様性を生み出したのである。
 荷電スピン対称性も実は近似的対称性なのである。陽子は電荷を帯びているので電磁相互作用をするが、電気的に中性な中性子はしない。そのため陽子と中性子とはわずかに質量が違い、性質は完全に同じではないから厳密には対称的でない。ただし、核力の強さは電磁気力よりはるかに強いので、電磁気力を無視して、近似的に核力は荷電スピン対称性を有するといえるのである。
 対称性の破れには、その破れ方の性質の違いで二通りある。相互作用自体の対称性の破れと、真空の非対称性によって引き起こされる自発的対称性の破れである。前者の例は後述する小林・益川理論の「CP変換に対する対称性の破れ」であり,後者の「自発的対称性の破れ」の例は南部理論である。
物理法則の対称性は,物体(粒子)の運動方程式の対称性とその舞台となる真空(あるいはエネルギー最低の基底状態)の対称性の両方の性質で決まる。元の運動法則が対称的でも真空の対称性が破れると,その法則の対称性は破れるのである。簡単な例として結晶をとろう。原子が等間隔に並んだ無限結晶を基底状態として、その空間の対称性を考える。空間を平行移動したとき,移動距離がちょうど格子間隔と同じなら元と同じ状態になるが、格子間隔より小さい平行移動では状態が元と違うので、この変換(移動)に対して対称性は破れていることになる。このような結晶の舞台での電子の運動を考えると、電子の位置により格子原子からの作用が変わるので、空間的対称性が破れているといえる。この場合、結晶格子が真空の役をしている基底状態である。結晶は平行移動対称性が破れているので、電場中での電子の運動方程式が対称的であっても、この物理系の法則の対称性は破れているというわけである。

自発的対称性の破れとは 
 自発的対称性の破れの説明によく引用されるのは鉄の磁化である。不規則に置かれた鉄原子の多数集団(厳密には無限個の鉄原子)が,原子同士の磁気的相互作用で突然いっせいに向きが揃って磁石となる現象である。本来の電磁気の法則は方向によらず空間的対称性を有するが、磁化した磁石の内部の世界ではSN極という特殊な方向ができて、方向に関する対称性が破れている。このように、外部からの作用によるのではなく,原子同士の内的相互作用により対称性が破れる現象を「自発的対称性の破れ」という。超伝導も金属内の電子がクーパー対という緩い結合状態を作り、対称性が破れていることによって起こる現象である。これも自発的対称性の破れの例である。

7.対称性の破れに関する南部理論 
 クォークやゲージ場など、原子どうしの内的相互作用により真空の対称性が破れることがある。南部は超伝導理論からヒントを得て、核子どうしの内的相互作用により核子のカイラル対称性というものが自発的に破れて、核子が質量を得ると同時にπ中間子(湯川中間子)が発生するということを理論的に導いた。
 カイラル対称性というのは粒子のスピンの向きと運動方向に関するもので、図2のようにスピンと運動方向が右ネジ方向に揃った状態を右カイラル状態、反対向きの状態を左カイラル状態という。質量ゼロの粒子は右か左のいずれかのカイラル状態にある。

    (図が書けないので省略)

 右と左のカイラル状態を入れ換える変換をカイラル変換といい、この変換で不変な系をカイラル対称な系という。もとは質量ゼロの核子は右と左のカイラル状態があり、理論はカイラル対称な状態にあると想定されている。その核子が真空の核子-反核子対も含めて複雑に相互作用をすることでカイラル対称性が破れ、両カイラル状態が混合した状態(スピンと運動方向は揃っていない)になる。その結果、真空のカイラル対称性が破れて核子の質量が生まれ、かつ中間子が発生するというのである。このときの相互作用は外部からの異種作用ではなく、核子間の内部相互作用であるから、自発的対称性の破れである。このことを示したのが南部理論である。
 南部の自発的対称性の破れの理論は、後にゴールドストーンによって一般化され、対称性が自発的に破れるとき、質量がゼロのスピン0粒子(スカラー中間子)が出現することが導かれた。これを南部-ゴールドストーンの定理という。
 このように、自発的対称性の破れも、大本を正せば結局は相互作用によって引き起こされるということである。
 ちなみに,南部-ゴールドストーンの定理の意義について言及しておく。基礎的自然現象には、定常状態を変化させようとする作用に対して、その変化に抵抗する効果(一種の慣性)がその系の内部に現れる傾向がある。力学における慣性(外力に対する慣性抵抗)、電磁気学におけるファラデーの電磁誘導法則(磁場の変化を妨げる電場の発生)、熱力学における平衡移動の法則(ルシャトリエ-ブラウンの法則、平衡状態を破る作用を打ち消す効果)などがその典型的な例である。自発的対称性が破れるとき、発生するスカラー中間子は励起モードであるから、その発生は対称性を破る作用に抵抗する効果と見なすことができる。それゆえ、南部-ゴールドストーンの定理は、平衡移動の法則の素粒子版といえるであろう。

相互作用の統一理論と南部理論 
 素粒子の4つの基礎的相互作用は元はただ一つであったのだが、その統一相互作用の対称性が破れて強、電磁、弱相互作用と重力に分岐したというのが統一理論である。それ以前の素粒子論は、異なる相互作用を別々に解明し、むしろいかなる種類のものがあるかを追究していた。それゆえ、この統一理論は相互作用に関する観点を逆転させたことによる、自然観の転換でもある。

 自発的対称性の破れに関する南部理論は、相互作用の統一理論の重要な鍵となった。その対称性の破れの引き金となったのは、ヒグス場といわれるスピン0のスカラー粒子(荷電φ+と中性φ0の2成分がある)である。そのうちの一方のφ0が自発的凝縮を起こして真空の対称性が破れたとされている。宇宙初期の超高温状態のときはヒグス粒子のない状態がエネルギー最低の真空であったが(図3a)、宇宙膨張により温度が下がるとヒグス場φ0のポテンシャルが変化して、図3(b)のようになる。

  高温でポテンシャルが対称的状態(φ0がゼロがエネルギー最低状態)
       →低温でφ0が±vのところがエネルギー最低状態(図が書けないので省略)

図3.ヒグス場による真空の相転移:真空の対称性の破れ(横軸はヒグス場の強度、縦軸はヒグス  場のポテンシャル) 


 すると、φ0がゼロの状態(原点)よりもφ0が±vの状態の方がエネルギーが低くなる。それゆえ、φ0の真空期待値<φ0>がゼロの対称的状態ではなく、±vの状態がエネルギー最低の真空になるというわけである。±vのうちどちらを自然が選ぶかは偶然で決まる。たとえば一方の+vの状態が真空になれば、自然界は非対称になり、真空の対称性が破れたことになる。この状態はφ0が凝縮して真空中の至るところに(無限に)詰まった状態を表す。これがヒグス場による真空の対称性の破れ、つまり真空の相転移である。この真空の自発的対称性の破れが、相互作用に反映されて素粒子の運動法則の対称性も破れるというわけである。vの値は真  
空の対称性の破れの程度を表す量である。
このように真空は空ではなく、粒子-反粒子対以外に中性ヒグス場などいろいろ内包しているのである。「物理的真空」とはエネルギーが最低でかつ安定な基底状態のことである。それゆえ、この真空は、トリチェリーの真空以来の近代物理学の真空概念とは非常に内容の異なるものである。
 この真空中を粒子が運動すると、ヒグス場との相互作用により抵抗を受ける。この抵抗は一種の粘性抵抗
のようなものである。宇宙の創生期には、もともとクォーク・軽粒子の質量はゼロだったと推測されているが(その理由は省略)、真空を埋めるヒグス場によるこの抵抗が粒子の慣性質量を生んだというのである。
 相互作用の統一理論は、最初電磁相互作用と弱い相互作用を統一するモデルがワインバーグとサラムによって提唱された。ワインバーグ-サラム理論は実験的にも検証され、標準理論と呼ばれている。さらにこの弱電相互作用と強い相互作用を統一する理論を大統一理論といい、ジョージとグラショウによって提唱された。

8.CP対称性の破れ:小林・益川理論   
 自然界の法則は右手系でも左手系でも同じだと思われていたのに、素粒子崩壊のときの弱い相互作用では空間反転のP変換で対称性が破れていることが発見された。鏡に映した世界と元の世界では法則が異なるということは予想を裏切る大発見であった。
 基礎的相互作用には、「CPT変換不変」という定理がある。3つのC,P,T変換を同時に行えば相互作用の形式は必ず元にもどり不変である。この定理は極めて一般的前提の基で成り立ち、現在でも信じられている。それゆえ、3つのうちの一つの不変性が破れれば少なくとももう一つ、またはすべての変換の不変性は破れていることになる。当時はT変換は不変であろうと予想されていた。CPT不変定理によれば、T変換不変ならば、CとPを組み合わせたCP変換も不変になる。ところがCP対称性の破れがK0 中間子の崩壊現象で発見された。だから、CP変換、つまりT変換に対する非対称性の発見はさらに大きな驚きであった。
 右手系と左手系で基礎的な物理法則が異なるなど、
それ以前は思いもよらなかったから、ましてCP変換に対する対称性が破れているとは!自然は実に奥深く変
化に富んでいることかと再度の驚きだったのである。
 
P変換:右手系から左手系への変換(鏡映)+C変換:粒子世界を反粒子世界に変換
 
                図4.CP変換  (図が書けないので省略)

 
 CP変換に対する対称性の破れはどのようにして起こるのか、そのメカニズムは長いあいだわからなかった。CP変換の対称性を破る相互作用をクォーク波動関数を用いて表すと、相互作用の表式は複素数でなければならないことがわかっていた。一般に複素数はexp(iθ)(=cosθ + i sinθ)のように位相で表される。ところが、量子力学の波動関数(複素数)ψ=|ψ|eiθには位相θの任意性がある。波動関数の位相は粒子の波動性を表すものであるが、粒子の位置や運動量などを観測するとき、その観測確率は波動関数の絶対値の2乗|ψ|2 で与えられるから、ψの位相θは消えてしまう。それゆえ,波動関数の位相は自由に選べるわけである。
 クォークの弱い相互作用は種類の異なる二つのクォークと弱中間子Wというものの積(たとえば,u,dクォーク,Wの波動関数及び結合定数Gを用いてGudWのように)で表される。結合定数Gは弱い相互作用の強さを示す定数である(電磁気力の場合は電荷e)。最初にこの相互作用の表式を複素数にしても,クォーク波動関数の位相変換(たとえばu→ue-iθ)によってその表式の位相は消去できて表式全体を実数にできる。これではCP対称性の破れる相互作用にならない。
 では、波動関数の位相変換をしても位相が消えないような相互作用をつくるにはどうすればよいかが問題であった。いろいろなクォークの組合せで、相互作用の種類(項数)がたくさんあれば、クォーク波動関数の位相変換で一つや二つの項の位相は消えても、いくつかの項の位相は残る可能性がある。その条件はクォークが6種類以上あればよいということを小林・益川が発見したのである。
 その当時はクォークは3種類u,d,sしか発見されておらず、4番目のcクォークが発見されようとする時期であった。だから、小林・益川理論が正しければ、あと3種類のクォークがあるはずだと予言したことになる。その後、予言通り次つぎにそれらクォークが発見された。そして,B中間子の崩壊現象で、CP対称性の破れに関してこの理論の正しさが実証されたのである。

なぜ反物質は消えたか  
 CP変換に対する対称性の破れの重要性は,宇宙創生期になぜこの宇宙は粒子のみ残り反粒子は消えたのかという疑問に答える鍵となりうることである。なぜならば、真空からは常に粒子と反粒子が対発生するから、宇宙創生期には粒子と反粒子が同数あったはずである。ところが、この宇宙は粒子のみでつくられていて反粒子はない。
 宇宙創生期のビッグバンで、真空からクォーク-反クォーク対、電子-陽電子対などの軽粒子対が多量に発生し、光子、グルーオンなどと共に混沌としたスープ状態ができた。そのスープの中で粒子-反粒子は対消滅と対発生を繰り返していた。粒子と反粒子の世界の法則が完全に対称的であれば、両種の粒子は永久に同数残るか、ともに全消滅するはずである。
 その謎を解く鍵がCP対称性の破れであった。粒子と反粒子の世界では物理法則がわずかに異なっていれば、反粒子が粒子に変わることも(その逆も)起こりうる。
相互作用の大統一理論によれば、粒子と反粒子とは相互に転化する可能性がある。すると、ビッグバン以後の宇宙の膨張過程で、反粒子のわずかなものが粒子に変り、その変化が積もってこのような粒子のみからなる宇宙ができたと推定できるのである。

9.終わりに
 南部理論も小林-益川理論も、階層的自然界のもっとも基礎となる素粒子・クォークの理論のうちで、相互作用の対称性とその破れに関するものである。さらに、その理論は、粒子論の範囲に止まらず、宇宙創生期の基本的な問題にも深く関わっていることが理解できるであろう。
 3人の研究業績はすばらしいものであるが、これでこの分野の問題がすべて解決したわけではない。一つの疑問が解明されると、その先にさらに奥深い多くの問題が必ず現れる。この理論に関しては、たとえばヒグス場の生成や凝縮の力学的機構、ヒグス場の存在の実験的検証、およびCP対称性の破れの力学的機構の解明などが残された問題である。

        参考文献
 説明不足の所は下記の文献で補って下さい。
(1)拙著『力とは何か』丸善(1995),
(2)日本物理教育学会近畿支部編『よみがえれ理科教育』第2章   東京書籍(1999),および拙稿「自然の階層性から見た物理、   化学、生物、地学」『物理教育』Vol.51, No.4(2003),   (3)拙著『科学は自然をどう語ってきたか』第7章 ミネルヴァ   書房
物理学の基礎としての物質と真空概念の変遷
「物理学の基礎としての物質と真空概念の変遷」

( これは最近「 日本科学者会議大阪支部哲学研究会」で報告したもののレジュメです。物理教育の参考になるはずです。)

 物質概念と真空(空間)概念とは密接に関連していて、物理学の基礎をなすものです。物質と真空(空間)の物理的概念は、自然科学の進歩とともに変化発展してきた。その歴史的変遷(進化)の過程は物理学の進歩・発展の指標ともいえるほど重要なものである。

 古典科学から近代物理学・化学、そして現代物理学・宇宙論まで、それがどのように進化してきたかを、科学論の観点から報告する。

1.古代の物質、空間概念

古代科学の主要テーマ:物質観、宇宙観、生命観
 宇宙観(宇宙像)と空間概念は密接に関連。
 物理的空間と真空の区別は明確ではない。
 物質観:原子論と元素論(原子は大きさの究極要素、元素は質の究極要素)、
     物質不滅。 
宇宙観:構造のある有限宇宙とユークリッド的無限宇宙。
空間観:物質の無い空の空間(真空)を認めるものと、物質と空間は不可分(物質即空     間)という真空否定論。

2.古代ギリシアの主な物質・空間概念

・デモクリトス・エピクロス原子論:(ルクレチュウスが集大成)- 無神論
 物質の究極実体として不変不可分な原子(atom)の存在を仮定、自然界の運動・変化を 原子の運動・組み合わせで説明。
 原子は真空中を運動:真空の存在が不可欠。
 物質ごとの原子が元素でもある(霊魂の原子も仮定された)。 
 宇宙空間は無限に開かれたもの。

・アリストテレス自然学
 元素論:初期の一元論(水、火など)から多元素論へ
 アリストテレスの元素論:4元素-火、水、土、空気;4性質-温、乾、湿、冷、 
 4元素と4性質の組み合わせですべての物質の性質と変化を説明。
空間論:物質と空間は不可分、真空を否定-真空嫌悪説。原子論と対立。
   真空否定のために天上界に第5の元素エーテルを仮定。
宇宙観:地球中心の階層的有限宇宙-恒星天球、惑星天球。上空ほど質が高く高位。

・インド、中国の物質観・宇宙観
 インド:原子論、元素論-宗派ごとに異なるもの。階層的原子論もあった。
     ジャイナ教-ニャーニャ・バイシェーシカ派の原子論が有名。
     不変不可分の究極原子、真空中を運動し離合集散。
 元素論:火一元論から最後は5元素論(火、水、地、風、虚空(akasa))
       それぞれの元素に固有の4性質(色、味、香、可触性)を付与。
  「虚空」が元素の中に入っていることが特徴。
 宇宙観:地球中心の有限宇宙、輪廻思想に基づく循環的宇宙。
中国:元素論はあったが原子論は無い。
   気一元論-陰陽説-五行説(木、火、土、金、水)。
空間は気に充たされている-空間と物質は不可分-真空否定、原子論無し。
宇宙観:有限宇宙-天蓋説、渾天説
       無限宇宙-宣夜説 (観念的理論)

 このように、空間と物質の関係は密接であり、二つの自然観として対立して存在した。それぞれ二つの流れを作り、その後の自然観に影響を与えた。

3.中世から近代科学の前夜まで ・アラビア科学 
 
 科学文明の中心はイスラム圏アラビア科学へ移行。ギリシア科学とインド・中国から科学・技術を受け容れ、継承発展させた。アリストテレス自然学に対する批判が芽吹き、独自のアラビア科学を築く。
 物質観、宇宙観はアリストテレス自然観とプトレマイオス天文学を受け継ぎ、とくに注目するほどの変化なし。運動学については、アリストテレスの媒体説からの脱皮を示すmayl説(運動傾向説)がでる-残留説、インペトゥス理論への道を拓いた。
 また、プトレマイオス天文学への疑問をもち、批判もでた。

・中世西欧科学
 14世紀に太陽中心説が現れる:新プラトン主義の影響を受けて、万物を育む太陽に特別の意味を与える自然観。
 ニコル・オレムは太陽中心説を唱え、古来からの自然学や神学を反論し、地球の日周運動の可能性を論じた。ニコラウス・クサヌスは地球は星の一つであり、無限宇宙の中を運動と主張(15世紀)。
コペルニクスの太陽中心の地動説(1543):宇宙空間革命-アリストテレス自然学崩壊の端緒。しかし、彼はまだアリストテレスの恒星天と有限宇宙模型を信じ、円の概念を尊重した。
コペルニクス以前に太陽中心の地動説を唱えた者はいたが、それが受け容れられなかったのは当時の自然観や宗教的教義のためばかりではなく、運動学的理由、天文学的理由があった。
ガリレオの地動説擁護(1632):地球運動を感じない理由-運動の相対性 。
望遠鏡による月と惑星の観測から地球は他の惑星と同じ天体。
無限宇宙へ:恒星の年周視差が観測されないことから、恒星は従来の予想より遙か遠方。
ジョルダーノ・ブルーは天球を否定し、拓かれた無限宇宙を力説。
ケプラーの法則(1609~19):惑星運動に関する3法則-楕円軌道-円のドグマからの開放。その意義が注目されだしたのはずっと後。
 惑星の運動を力学の対象にし、天上界と地上界の間の壁を無くした。

物質観:原子論の復活-ガッサンディは宇宙創生時の神の一撃で原子に運動を与えたとして、ギリシア原子論の無神論を回避して復活させた。
ボイルの粒子哲学、デカルト微粒子渦動論の提唱-原子論的自然観の定着へ。

 インド、中国の物理学的物質・真空概念は、中世以後ほとんど進歩しなかった。

4.近代科学の基礎にある物質観と真空概念 

 16~17世紀に近代力学が成立。それを皮切りに、実証科学として近代科学が築かれた。近代物理学の基礎にある自然観は、原子論的、機械論的、数学的自然観である。
 近代力学-ニュートン力学-が築かれうるためには、コペルニクス革命に引き続く重要な発見が必要であった。それらは、原子論の定着とともに、真空の存在、等方等質な無限宇宙空間、運動に関する物質の本性の認識革命などである。
その理由を以下に述べる。その中心的科学者はガリレオである。
  
(1)無限に開かれた等方等質空間の宇宙
コペルニクスの地動説を契機に、アリストテレスの有限階層宇宙模型が崩壊し、宇宙は無限であり、階層性も上下の質的差違もなく空間は等質等方であると見なされるようになった。太陽系はその無限宇宙に浮かぶ恒星系の一つ。 
この宇宙模型は古代ギリシアの原子論の宇宙観と同じで、原子論を支持する一要因。

(2)慣性法則の発見:運動に関する物質の本性の認識転換
アリストテレスは、物質の本性は静止にあるといって、力が働き続けなければ物質は静止すると主張。アリストテレスの力学「媒体説」に対する疑問は3世紀頃からあり、14世紀にビュリダンなどの理論(投射体に手からインペトゥスが与えられ運動し続ける)が主流となっていた。
ガリレイは物質の慣性を見出し、運動に関する慣性法則を発見した(1638)。物質の本性は静止でなく、同じ速度を維持する性質(慣性)を有す、すなわち、物体に力が働かなければ等速運動を続ける。
 慣性法則は運動に関する物質観の180度転換である。力学の基礎となるもっとも重要なものである-近代力学への道を拓いた。
 これによって、力学の基本概念は力と加速度であることが認識された(アリストテレス力学の基本概念は力と速度)。
慣性法則は等方等質の無限空間で成立:空間が有限であれば、その境目で止まる。空間が等方等質でなければ力の作用なしで速度は変化する。
 ガリレイの慣性法則の発見は、地球上の水平運動としてなされたから、慣性運動は地球を一周する円運動となる。ガリレイは天体の円運動は慣性運動と考えていた。
 等方等質の無限空間で成立する完全な意味での慣性法則はデカルトにより確立された
 慣性法則を力学理論の基礎に据えてのもデカルト。

(3)ガリレイの自由落下法則
物体の落下運動は等加速度運動であること、また空気抵抗など副次的要素を排除した理想的状況下では、すべての物体は重さに関係なく同一加速度で落下する(アリストテレスの等速落下を否定)。 ガリレイの落下法則は真空の存在を前提にして成立する。
     S=gt2/2 : 物体の質量は無関係
 この法則を用いて円運動や放物運動などいろいろな加速度運動を分析-定量的力学理論を築く基礎となった。

(4)真空の存在を確認することが原子論成立の必要条件 
 アリストテレスの真空否定「真空嫌悪説」に対する疑問が台頭していた。
鉱山の鉱水汲み上げのポンプや井戸ポンプが10m以上は働かないこと、ポンプの筒のその上部は空ではないかという疑問がでた。ガリレイは「真空の力」と推測される現象例をいろいろあげている。「真空の恐れ」は有限と見られるようになった。
 トリチェリーの真空実験(1643):水では10mだが、水銀なら76cmなので確実な実験がしやすいことに着眼。ガリレオが弟子のトリチェリーに示唆したらしい。
 水銀柱の上部の空間は真空と主張し、水銀を押し上げる力は大気圧と推測。
 それに対して、そこの空間は空ではなく、水銀蒸気があるとか、エーテルのようなある種の媒質があるといって、真空であることを認めない説もでた(デカルト)。
 デカルトは宇宙に充満する一種の流体(微粒子)の存在を仮定し、その渦運動で天体の運行や重力を説明した。空間即物質のアリストテレス的空間論を受け継ぎ真空を否定した。
 パスカルの「真空中の真空」実験:大気圧説を支持するものとして、高山上では水銀柱が低くなることを示した。決定的実験はパスカルの実験、トリチェリーの真空中でこの実験をすると水銀柱は上昇しない、というものであった。
ゲーリケが真空ポンプを発明し、真空科学が急速に進歩した。
パスカルの原理(流体の圧力の伝達則)、ボイルの法則(気体の体積と圧力の関係)がトリチェリーの実験と関連して発見された。

(5)原子論的自然観
 原子論は17世紀以後の自然観の主流となった。
 原子の機械的運動によって自然現象を説明-機械論的自然観の基礎。
 ニュートン力学の背景に原子論:質点力学、等方等質の無限空間と一様時間。
宇宙の構成要素としての原子:自然現象をすべて原子の運動に帰す。
 ラヴォアジェの元素概念の転換:近代的元素概念の確立(1789)-近代化学の誕生へ
 ドルトンの原子論(19世紀):化学的原子論、熱素説のもとで熱学と関連(自由熱素・束縛熱素と真空-原子の隙間の空間に熱素が侵入)。
熱の原子運動論の成立(1845頃から):分子統計力学へ。 

5.ニュートン力学の基礎

(1)ニュートン力学誕生の背景
絶対空間・時間と経験的相対空間・時間の存在を仮定-絶対時空間は無限な等方等質空間と、一様に流れる時間を前提。
・ガリレイ・デカルトの慣性原理が力学理論の基礎。 
・質点力学がベース:原子論的自然観を基礎にして成立。     
・ケプラーの3法則:地上の法則と天上界の法則を同じ力学の対象へ。

(2)ニュートン力学について
・基本法則:慣性法則、運動法則、作用-反作用の法則
・運動法則:ma=fは質点にたいして成立-原子論が背景。
・1物体への力を外力として扱い、外力の作用で物体は真空中を自由に運動。
 力学を単純な1体問題に帰着させた。デカルトのように宇宙を充たす媒質粒子の力学では不可  
  能。
・力の作用は2物体間の相互作用が基本:作用-反作用の法則 
・拡がりのある物体や流体は質点の集合として扱いうる:オイラーたちにより完成。

(3)万有引力説
万有引力発見の背景:
・ガリレイの落下法則-地上ではすべての物体は真空中で同一加速度で落下(リンゴも石も羽毛  
 も)。
・円運動の向心加速度を落下法則を用いて求めうる。
・天上界の月も地上の物体も同じ力学法則に従う。
・真空中を伝わる遠隔作用を認める:デカルトの媒質渦動論を否定。

 万有引力説について:
・地上の落下加速度と月の落下加速度を比較。
・距離の2乗に反比例し質量に比例する引力:地上の落下現象(リンゴ)だけからは距離依存性はえ られない。
・ケプラーの3法則(とくに楕円軌道)の説明で万有引力の法則の正しさを確信。
 フックも同じ重力の法則をえた。
・空の空間(真空)中を伝わる万有引力は大きな仮定:デカルト派はそれを数学的仮説と批判- 
 両派の長年の論争。
 ニュートンは遠隔力を説明できず「空間は神々に満ちている」と逃げた。その解決は現代科学に残 された。
・原子間の直接的2体力の合成でマクロ物体間の重力となると考えた。
ニュートンは地球の重力は独立な原子間力(万有引力)の合成力であるとして、地球の中心に向か う重力を導いた。 

 (6)エーテルと真空

 光の波動説と粒子説は17世紀以前からあった。光速度が有限であり、その値が測定され、また光の波動説が19世紀の初めにヤングやフレネルによって確立された。
 光を伝える媒質として宇宙に充満するエーテルが仮定された。エーテルは古代からいろいろな姿で登場してきたが、19世紀にはその存在は無視できなくなった。
 電磁気学の進歩で、ファラデー・マクスウェルの場の理論派は、電磁場はエーテルの緊張状態であるとした。
 マクスウェルの電磁波理論:電磁波を予言し、光の電磁波説を提唱。電磁場エーテルと光エーテルの統一へ-エーテルの存在を確信。
 宇宙に充満する静止エーテルの存在は絶対空間を象徴。
エーテルを追って:エーテルの存在を実証しようと、電磁気現象 光現象を通していろいろな実験が試みられた。
 マイケルソン・モーレーの実験:光りの往復運動から地球のエーテルに対する相対運動の効果を測定。 否定的結果から相対性理論へ。

 ローレンツの電子論:静止エーテルの存在を前提。電磁場と電子を実体とする。

近代物理学における物質と真空概念:まとめ
空間:幾何学的延長、一様無限なユークリッド空間
真空:物質(原子・エーテル)とは独立な空の物理的空間。物質の受け皿としてその運動変化の 
  舞台である。(エネルギー的には最低の状態。)
物質:原子・元素論。究極的実体は原子。各原子に固有の質が元素。

 このように、物質と真空概念は物理学の重要な基礎概念である。アリストテレス自然学の物質、真空(宇宙空間)概念から抜けて、近代科学的な物質、真空 概念への転換は近代科学成立には不可欠であった。

6.現代科学の物質・真空概念

(1)20世紀の物理革命:相対性理論と量子論
・19世紀終わり頃、近代物理学は、宇宙の原理をすべて掴んだと、物理学者の自負。
 しかし、放射性元素の発見、陰極線から電子の発見-不変不滅の古典原子論への疑念。・エーテ ルに対する地球の相対運動の効果見出せず。黒体輻射(空洞輻射)のエネルギー 無限大の困  難-近代物理学への確かな信頼が揺らぎ出す。
 
アインシュタインの特殊相対性理論(1905)
・時間・空間概念の変革:絶対時空を否定
 2つの原理:運動の相対性、光速度一定性。
・エーテルの存在を否定:真空は空の空間、その空の真空が物理的場-電磁場の舞台。
・運動により時間・空間スケールは変化:ローレンツ変換、 4次元ミンコフスキー空間。
・質量とエネルギーの同等性:物質概念の変更。
 近代物理(ニュートン力学)への批判、その限界を認識。
 
一般相対性理論(1915)
・慣性系は人為的選択の基準系:自然法則は座標系の採り方に依存しないはず-加速度系を含   む一般座標系へ。
・万有引力は遠隔作用-電磁場の概念を拡張し、重力場による伝達を目指す。
・2つの原理の上に構成:一般相対性原理(すべての座標系で物理法則は同じ)と等価原理(重力  加速度と重力は同等)。特殊相対性理論の単なる一般化ではない。
・重力は4次元時空間の歪み:重力の幾何学化-等価原理による。 
・任意座標系を同等に扱うにはユークリッド空間では不可-リーマン空間による記述。
物理的時空間の革命:一様無限時空から曲率をもった歪んだ時空間へ。
・アインシュタインの重力方程式:容れ物の時空間と中味の物質との相互規定的関係。 
 重力場はエネルギー・運動量を有し、時空間と不可分な存在。空間は単なる物質の容れ物ではな い。
 時空間の構造が重力による物質の運動を規定し、逆に物質が時空間の構造を規定。
・ブラックホール:宇宙の中の小宇宙(閉じた空間)。 
一般相対論の宇宙:時空と物質が相互規定的に、持ちつ持たれつしつつ発展する一つの システム-原因・結果の時系列的運動・発展ではなく、同時的相互規定性。
 これは物質と時空の新たな「存在の理法」の観点。
 (作用-反作用の法則は力の作用の発現形式を表現した現象論。相互規定性ではない。)

古典原子概念の崩壊:階層的自然観へ
・原子・分子の存在を実証:アインシュタインの分子統計力学-ペランがブラウン運動の測定から分  子の実証。
・放射性原子の発見:不変実体の否定-元素の転換、原子は構造を有す-トムソンの原子模型。
・ラザフォードの有核原子模型:原子核と外殻電子。マクスウェル電磁気論と矛盾。 
・古典的原子概念の崩壊-原子核も複合系(陽子・中性子)-階層的自然観へ。

量子論の誕生
・プランクの作用量子発見(1900年)
・物質粒子の2重性:ミクロ物質は粒子性と波動性(ド・ブロイ)を有する実体-物質概念の革命的変更。
・有核原子模型、原子スペクトル、作用量子の困難を統一-ボーアの前期量子論。
・ハイゼンベルグ・シュレーディンガーの量子力学(1925~6)
エネルギーの不連続性、量子飛躍-確率法則(ボルン)が物理理論に本質的に導入され た。
 古典物理概念の全面的変革-科学革命、自然認識の意味を問い直す。

相対論的場の量子論:反粒子を予言
・相対論と量子論の統一:ディラックの電子論-真空の空孔理論-陽電子(反電子)の存在を予言。
・すべての粒子に反粒子が存在:反物質・反宇宙(裏の世界)の可能性-物質概念の再  革命。
真空から粒子・反粒子の対発生、対消滅して真空へ。
・真空の物質性:真空は粒子と反粒子が無限に縮退したエネルギー最低の空間-空の物理的空間 は存在しない。ごく短時間のうちに対発生・対消滅を繰り返している。
  真空をエネルギー最低(ゼロとする)の安定な状態と定義。
・無限多体問題:厳密には1電子でも1体問題として扱えない-真空の粒子・反粒子と相互作用-  真空偏極、自己エネルギーなど無限大の困難-繰り込み理論へ。

 相対性理論はエーテルを追放し、いったん真空を空にしたが、量子論とともに再び真空を 物質で埋めた
反粒子の存在は、宇宙創世時の物質の起源を説明する糸口となる。

真空の相転移:ヒグス場の縮退  
・宇宙生成のビッグバンから膨張する宇宙-温度降下-ヒグス場による真空の相転移。
・自発的対称性の破れ:中性ヒグス場がボーズ凝縮をした状態がエネルギー最低の状態-それが  真空。真空の非対称性。
・相互作用の統一理論:4種の基礎的相互作用は宇宙創生時には統一された一つのもの  (現在 は超高エネルギー相互作用、あるいは極短距離相互作用で実現)と見なされる。
 真空の相転移により相互作用の対称性が破れ、4種の相互作用に分岐。
 真空の非対称性が相互作用の分岐を生み、自然の多様性の根源。

現代の物理的真空:複雑な構造-粒子・反粒子対、ヒグス場などを内包した空間。

 物理学の進歩・発展の基礎に物質概念と真空(時空間)概念の変革があった。

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 現代物理学の物質観と時空(真空)観
    物質 ←----→ 相互規定 ←----→ 時空間
・階層的構造 ・空間概念と真空を区別
 宇宙---原子---クォーク ・連続的延長
 物質の非連続性       幾何学的構造(ユークリッド性、                         非ユークリッド性)
・元素概念:質的区別、相互転化                   
 原子の場合:物質の種            ・真空:エーテルで充たされた空間  素粒子・クォークの場合:量子数   ・内部空間(内部対称性空間)
荷電スピン空間、色対称性空間など

・質量=エネルギー:同等性 ・空間=真空(エーテル否定)
 E=Mc2 空間(真空)は物理的場
・物質と時空の相互依存 ・空間の大域的位相構造       空間の物質性(一般相対性理論)        宇宙構造:閉空間か開空間か、
                     ブラックホール:宇宙は連結でない

・量子論:粒子・波動の二重性 ・量子的不可分性
  局在性と非局在性
・物質と反物質 ・真空の物質性:空の空間を否定
真空から粒子-反粒子の対発生・対消滅 粒子・反粒子の凝縮した空間
   ヒグス場の凝縮
・真空の相転移:ヒグス場の縮退
・物質場とゲージ場                     
相互規定性的存在  ・場の量子論の真空:物理的真空とは
エネルギー最低の安定な状態
  無限多体問題:繰り込みが必要  ・エントロピー増大則 ・時間の非可逆性

・物質の本性:運動と相互作用
物質の能動性:自己組織化、進化

すべての原因は物質の相互作用、および物質と時空間との相互規定関係。
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         参考文献
説明不足のところは以下の拙著を参照してください。
1.『物理学の論理と方法 上下卷 』大月書店(1983)、
2.『素粒子・クォークのはなし』新日本新書(1985)、
3.『東の科学・西の科学』東方出版(1988)、
4.『力とは何か』丸善株式会社(1995)
5.『科学は自然をどう語ってきたか』ミネルヴァ書房(1999)、
6.『科学はこうして発展した-科学革命の論理』せせらぎ書房(2002)、
7.「アインシュタインの自然観と思考形式」素粒子論研究Vol.114,No.1(2006)
対称性の破れと相互作用の階層性
 対称性の破れと相互作用の階層性
    --自然界の階層構造と多様性を生むもと--



  (これは日本科学者会議大阪支部の「ノーベル物理学賞受賞記念学習会」で話すものです)

 今年度3人のノーベル物理学賞は、南部陽一郎氏「自発的対称性の破れ」、小林誠・益川敏英氏「CP対称性の破れ」に対して与えられた。この理論の解説と、この理論が素粒子論においていかなる意義があるか、そして宇宙創生以来の自然界の多様性と階層構造を生んだ基礎的要因とこの理論との関連を説明する。さらに、目に見えないミクロ世界の素粒子論における実証法も合わせて考察する。

1.自然界における物質の階層性
 マクロな物質を分解していくと分子、原子に到達。19世紀末までは原子(atom)は不変・不可分な実体とされていた。放射性元素の発見から原子は可変、分解可能な構造を有することに気づいた。20世紀初頭、原子は原子核とそれを取り囲む電子とからなること、さらに原子核は陽子と中性子からなることが解明された。
 電子、ニュートリノ、核子(陽子・中性子)、中間子などはこれ以上分解できない実体と見なし、素粒子と名づけた。その後多数の素粒子が発見され、素粒子もクォークからなることが明らかになった。またしても、素粒子という名は実態にそぐわなくなった。
 マクロ物質から上に向かって、惑星-恒星系-銀河--という階層があることが判明した。物質分布は連続的でなく、切れ目のある階層をなしている。自然界は上層にも下層にも階層構造をしている。自然の豊かさと奥深さを示すもの。

物質分布の階層性:
宇宙-超銀河-銀河団-銀河-恒星系-地球(惑星)-マクロ物質
           -分子・原子-素粒子-クォーク-この下(サブクォーク)?                    ↓                                                           有機分子-細胞-組織-器官-個体種-生態系-生物界
 
 この階層系列は有限か無限かはわからない。多宇宙の可能性、サブクォークの可能性もある。坂田は無限階層を湯川は有限階層を主張。

各階層に固有の構造と法則
 物質の階層は、単なる空間的大きさで物質分布を区切っただけのものではない。各階層には、それぞれ性質とスケールの異なる物質で構成され、特有の構造がある。したがって、階層ごとに質的にも異なる特性がある。
 それぞれの階層を構成する物質と階層構造はみな異なり、構成要素の物質を結合している力は異なるから法則性もさまざまである。
その違いをもたらすものは物質間の相互作用(力)の差異である。

2.相互作用(力)の階層性
 物質の本性は運動と相互作用(力)である。相互作用がなければ、運動もなく、物質の存在も属性も認識できない。物質の属性はむしろ相互作用によって決まるといえる。
 相互作用は自然界のあり方を規定する最も重要な働きをしている。すべての根源は物質間の相互作用にあるといえる。
 相互作用にはいろいろな種類があり、それぞれ性質(働き)の違いがある。この相互作用の多様性の由来は、相互作用の特性の多様性と階層性にある。

相互作用(力)の働き方の3性質
 力学的相互作用(力)の働きを区別する重要な性質として3要素がある:
(1)力が作用する物質の属性、(2)力の強さ、3)力の到達距離
 (1)の意味は、電気力は電荷を帯びた物質間にのみ働き、電気的中性の物質には働かない。また、核力は核子(陽子、中性子)の間に働き、電子間や原子間には働かない。それぞれの力が作用するのはそれに対応した特定の属性をもった物質のみである。
 (2)強さに非常に強い力から弱い力まである。核力は非常に強く、電気力は中程度、重力は非常に弱い。化学結合力である原子間力は電気力より弱いが中程度の強さである。
 (3)の到達距離は、その力が及ぶ範囲の長短である。電気力や重力は無限遠まで作用は及ぶが、原子間力は原子の大きさの数倍程度、核力は原子核の大きさ程度で非常に短い。
・力の到達距離がすべて同じで、物質種に区別なく働けば、物質の階層性はない。
・強い力の到達距離が無限大ならば、宇宙は強い力で一色に塗りつぶされ、自然界の多様 性は生じない。 
相互作用の階層性
 物質の階層性を生み出す本は相互作用の階層性にある。
素粒子・クォーク間に作用する力を基礎的相互作用といい、4種類ある。
  強さの順に:強い力、電磁気力、弱い力、重力 (1次相互作用)
基礎的相互作用はすべてゲージ場を媒介とするゲージ力である。この中で、重力は他の 3つとは異質なところがある。

基礎的相互作用を1次相互作用として、次々に2次、3次相互作用が派生する。
 2次相互作用:原子間力(核力、化学結合力など)
 3次相互作用:分子間力(ファン・デル・ワールス力)
 4次相互作用:弾性力、圧力など
 1次力から4次力まで階層的構造をしていて、それぞれ力の作用に関する3性質を備えている。力の作用の3性質と力の階層性により、多種多様な力が存在し、物質の階層性と自然界の多様性を造り出している本である。
 
3.素粒子の世界
 原子・素粒子などミクロ物質は、マクロ物質とは異なる量子的特性を有している。
 ・二重性:粒子性(局在性)と波動性(非局在性、干渉性)
 ・不確定性関係:位置と運動量は同時に確定できない
 ・粒子の状態を表す波動関数:運動は必然的法則、観測は確率法則
 
物質観の転換
 ・二重性、 ・質量とエネルギーの同等性、 ・物質と反物質、 ・真空は空でない
  相対論的場の量子論→反粒子:真空から粒子-反粒子の対発生・対消滅

4.対称性とは、その破れとは?
  (以下4.~6.は雑誌『化学』2008年12月号に南部、小林・益川理論について解説したものを  参照。次のブログにそれを掲載する予定。)

素粒子の対称性:外部対称性と内部対称性
 対称性の破れ:相互作用による破れと真空の対称性の破れによるもの
要因:外部作用による破れと自発的対称性の破れ(内的相互作用による)、

5.南部理論と小林・益川理論について
 対称性の破れた相互作用:弱い相互作用-CP対称性の破れ
 自発的対称性の破れ:真空(基底状態)の対称性の破れ
 (無限多体系の内部相互作用による)

6.相互作用の統一理論
根元は一つの相互作用が自発的対称性の破れで分岐し、強、電、弱、重力相互作用が 生まれた。

7.宇宙創生期における対称性の破れ:反物質は消えた
 宇宙創生期のビッグバンで、真空からクォーク-反クォーク対、電子-陽電子対などの軽粒子対が多量に発生し、光子、グルーオンなどと共に混沌としたスープ状態ができた。そのスープの中で粒子-反粒子は対消滅したり対発生を繰り返していた。 (図)
 もし、粒子の世界と反粒子の世界の法則が全く同じならば、このスープ宇宙はその状態を繰り返しながら膨張していったろう。その場合は、その宇宙は粒子と反粒子とが同数存在する世界となったろう。あるいは粒子と反粒子は分離して別の世界を造ったかも知れない。そうならば、私たちの住む宇宙とは対称的な反物質からなる反宇宙がどこかにあるはずである。しかし、その形跡は見あたらない。

 CP対称性の破れは、粒子の世界と反粒子の世界の法則はわずかに異なっていることを示している。そして相互作用の大統一理論によれば、粒子と反粒子とは相互に転化する可能性がある。すると、ビッグバン以後の宇宙の膨張過程で、反粒子のわずかなものが粒子に変わったとすれば、現在このような粒子のみの世界ができたと推定できる。

8.自然科学の実証性
自然科学理論の正しさを保証しているものは観察・実験による検証である。これが近代科学以後の実証科学の特性である。
 自然科学の理論はすでに分かっている自然現象を論理整合的に説明できるだけでなく、未知の領域や現象について予言能力がなければならない。既知の現象を巧く説明する理論は一つとは限らず複数存在しうる。それゆえ、予言能力のない理論(その段階ではまだ仮説である)は、その正しさを検証する方法がなく、永久に仮説のままで止まる。

 実証科学:理論による演繹(予言)-観察・実験-理論の検証
このサイクルで、自然科学は進歩発展する。

実証法の変化発展過程
 自然科学における実証性の意味を、歴史的に大筋を振り返えることによって、実証法が科学の発展とともにどのとうに変化してきたかを一通り握んでおこう。

古典科学:間接的実証法 
 思弁的な推論ばかりではなく、経験・観察を拠り所として、多数の間接的傍証をもとに理論を組み立てた。さらにその理論からの演繹的推論で自然認識を深めていった。
 典型例は古代ギリシアとインドの原子論。観察による多数の間接的傍証から原子の存在 を推測した。(エピクロス流の原子論は暗闇に差し込む光線の中に見える微粒子の運動(チンダル現象)、ルビーの様な宝石を細かく砕くと宝石の色は失せて白い粉末になるなど。)

  間接的実証法の論理:多数の傍証例の整合性

近代科学:直接的実証法
 科学の方法の重要な柱として、観測・実験による検証方法を確立した。理論の客観性と確実性を裏付けるための実験法が意識的に工夫され開発されてきた。観測・実験による実証の意義を認識し、直接的実証法を意識的に求めた。
近代科学の「直接的」実証法は、少数例ではあるが典型的実験を工夫し、曖昧さの少ない解釈により明確な結論を引き出す方法である。
 例:真空の存在を証明するのに、水銀柱を用いたトリチェリーの実験がそれである。さらに水銀柱の上の中空が真空であること、およびその原因が大気圧であることを確認するために、山頂で実験を行ったりさらに水銀柱の上の中空が真空であること、およびその原因が大気圧であることを確認するために、ついには真空中での水銀柱実験を考案するところまでいったパスカルの実験がある。また、ガリレイは落下法則や慣性法則を導くのに、思考実験による推論と経験を合わせて用い、得られた法則を斜面を用いて検証した。

理論の役割:
 実験のデザインや装置の設定に前もって理論的考察(思考実験)が必要。
 データの解析、解釈に理論が不可欠。

現代科学:間接的+直接的実証
 現代科学の認識対象は、直接五感に訴えて認識できないものの方が圧倒的に多い。
理論の高度化に伴って、抽象化・精密化が進み、高度の観測・実験技術が要求されるようになってきた。その結果、科学の体系のなかで理論の役割が益々重要になっている。
 実験設計、測定データーの解析と結果の解釈など全てが理論に強く依存→「データの理論負荷性」は非常に強く、今後も増大し続ける。
 観測手段と測定値の解釈には何重にも理論のフィルターを透さねばならないもの。
例:素粒子論実験・宇宙論の検証法はその典型。

 素粒子は直接観測できないから、素粒子が通過した跡にできるイオン化された銀粒子の点列か、あるいは泡箱のなかの泡の点列を見て素粒子の飛跡と解釈している。その点列の状態から素粒子のエネルギー・運動量や種類を推定。この解釈ができるのは、確立された既存の理論を用いた技術のお陰である。クォークは単独では取り出せず素粒子のなかに閉じ込められている。それ故、クォークの観測は、高エネルギー素粒子を衝突させ、途中まで出てきたクォークが作る素粒子の束(ジェット)を捕まえる。ジェットの発生状態(図)から、そのジェットはクォークの成れの果てと解釈するのである。クォークの観測はその素粒子の飛跡の束を見るのであるから、もう一段理論を重ねた解釈を必要とするのである。
ブラックホール(その中から一切の情報が出てこない)の存在の検証法も何段階も理論が介在している。この他に、地球の内部構造、太陽内部の核反応の状況なども、確立された物理学の理論を用いて間接的情報によって実証せざるをえない例は多い。 

 このような場合、少数例による直接的実証はもはや不可能である。どの実験も確かな結論に導くには不十分であって、あの手この手を使って、多面的に実験を行い、それらの結果を総合して結論をださざるをえない。その過程で必然的に理論が強く介在する。決定的検証法がない場合には、間接的でも証例を多数揃え、それらの間の整合性を要求する、いわゆる総合的判断による間接的検証とせざるをえない。 現代科学にも、直接的実証法が可能なものもあるが、間接的方法にたよらざるをえない分野が非常に多くなっているのが特徴である。
 また、永久に再現性のない実験データーは科学データーとはいえず、やがて捨てさられる。また、予言性のない理論は仮設-演繹-検証のルートに載らないので、科学理論とはいえない。このように科学の進歩とともに実証法も変わってきた。このことは自然認識としての科学の意味、ひいては自然観にも反映されてきた。

実証性の論理   
科学的実証法は科学の発展過程において古代から、間接的-直接的-間接的方法というサイクルを経て転換してきたが、古代の間接的方法と現代のそれとは質的に異なる。現代の間接法は高度の理論に基づく複雑な実験に頼らざるをえないのがその理由であって、その実験法は可能な限り副次的要因を排除して目的意識的に自然に問いかけることにより、できるだけ確実な直接的情報を取り出すことを意図している。そのデーターや情報に基づき総合的に判断する。したがって、現代科学の実証法は間接的方法と直接的方法、すなはち分析・総合という複合的性格を強くもっている。
 通常、間接的方法と直接的方法の間に明確な一線を画することはできない。しかし、程度(量)の差は質的区別をもたらすから、両者の区別は意味がある。このことを前提として、現代科学および将来の科学において益々増大するであろう「間接的実証」の方法とその有効性について考察してみよう。

 一般に、ごく限られた少数の現象を説明するだけならば、幾つもの理論が可能である。極端な場合、オカルトでも可能である。しかし、非常に多くの現象や経験事実を説明しえて、矛盾のない理論(そのためには当然他の既存理論とも整合的でなければならない)は非常に少なく、大抵の理論は篩(フルイ)にかけられて失格する。したがって、多くの種類の観察・実験データと同時に、他の全ての理論との整合性をもって、間接的ではあるが「科学的実証」としうる。
 この実証法が妥当であり得るためには、自然界における実体と自然法則に関する均一性と斉一性が前提とされる。この前提なしには、再現性も不可能であるし、地球上で得られた法則を遠い太陽や銀河系に適用できないから、理論の整合性は要請しえない。太陽中心の温度を推定し、核反応が太陽のエネルギー源であることを推測し得るのもこの均一性と斉一性のゆえである。
 こうして間接的実証法でも科学的実証法となりうるが、その有効性や確実性にはやはり一定の限界がある。例えば、古代原子論は間接的実証法ではあったが原子の存在を推測し、近代科学を経て19世紀末から20世紀初頭にその存在が実証された。確かに原子は存在した。しかし、それは当初予想した物質の究極的実体ではなく、構造のある複合体であった。このように現代物質観は原子の存在を認めつつも、原子は自然の階層構造の中の一つの節として、化学反応における実体であって、古代原子概念とはかなり掛け離れたものである。この物質に関する階層的実体論は直接的実証法と間接的実証法との積み重ねの結果えられたものである。ここに間接的実証法の有効性とその限界がある。自然認識には要素分解の分析法と全体的判断の総合との協力が必要である。したがって、現代科学の間接的実証法の有効性と限界、すなわち、その確かさを評価しうる論理と基準を体系化しなければならない。それは情報理論のもう一つの課題であろう。

 将来一層重要となる歴史性をもつ現象(宇宙進化、物質の発展・進化、生物進化)に関する実証性の問題はさらに難しいが、興味あるものである。歴史的現象には反復不可能なものが多いため、実験による検証ができない。反復実験できないということでは、公害や環境破壊の原因解明にも共通している。
『物理学の論理と方法』復刻準備
『物理学の論理と方法』復刻の準備

 25年程前に、表題の本『物理学の論理と方法』を大月書店から出版しましたが、10年ほど前に絶版になった。

 この本は物理学とは何かについて、論理的構造とそれが築かれた方法を、私の自然観に基づいて解説したものです。物理学の各分野の歴史的発展過程を概観し、物理学の基礎概念と基本法則を基軸にした論理構造を分析しました。その元になったのは大阪府教育センターで長年高校の物理の先生に対して、ニュートン力学から、電磁気学、相対性理論、熱統計力学、量子論、素粒子論までを講義したノートです。それに加筆して上下2巻にまとめたのがこれです。

 このような科学論的な物理の解説書は他になく、本書の内容がユニークであたので、比較的好評でした。その後、復刻の希望が多く寄せられたし、インターネットにもその様な感想・書評の記事がかなりあることを知りました。そこで、もう一度これを復刻しようというきになり、今年からぽつぽつ取りかかることにしました。

 初版の不十分なところを補い、その後の物理学の進歩発展したものを取り入れて加筆する予定です。とくに新たな自然観に基づく科学論(科学哲学)を展開し、物理学の論理を考察したいです

 今度のものはペーパーバッグで廉価な本にしたいです。初版は高価だったので、その希望も多かった。

 私の人生も残りわずかなので、生きている間、できれば今年中に完成したいと思っています。


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